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神州天馬侠99
日期:2018-11-30 19:09  点击:296
 密林の出来事
 
    二
 
 そこは密林《みつりん》のおくであったが、地盤《じばん》の岩石が露出《ろしゆつ》しているため、一町四|方《ほう》ほど樹木《じゆもく》がなく、平地は硯《すずり》のような黒石、裂《さ》け目くぼみは、いくすじにもわかれた、水が潺湲《せんかん》としてながれていた。
 ギャアギャアギャア
 ——ふしぎな怪物の啼《な》き声《ごえ》がする。そして、すさまじい羽《は》ばたきがそこで聞えた。見ると、ひとつの岩頭《がんとう》に金瞳黒毛《きんどうこくもう》の大鷲《おおわし》が、威風《いふう》あたりをはらい、八方を睥睨《へいげい》してとまっている。
 いうまでもない、クロである。
 むろん、足はなにかで岩の根《ね》|っこ《ヽヽ》へしばりつけてあるらしかった。
「やい、もひとつ啼《な》け、もひとつ啼いてみろ」
 七尺ばかりはなれて、鷲《わし》とあいむきに、腰かけていた者はれいの蛾次郎、竹の先ッぽに、兎《うさぎ》の肉をつき刺《さ》して、しきりにクロを馴《な》らそうとしていた。
「おい、蛾次公《がじこう》、なにをしてるんだい」
「え」
 ふいに肩をたたかれて、蛾次郎がひょいと、うしろを見ると、竹童《ちくどう》が、松明《たいまつ》を薪《まき》のようにしょって立っている。
「なにもしてやしないさ、餌《えさ》をやっているんだ」
「よけいなことをしてくれなくってもいい、さっきも、おいらが鹿《しか》の股《もも》を二つやったんだから」
「ああ、竹童さんにも、おれが土産《みやげ》を持ってきたぜ、きょうは焼栗《やきぐり》だ、ふたりで仲よく食べようじゃないか」
「いやにこのごろは、おいらにおべっかを使うな、そんなにおせじをつかってきたって、もう、そうはちょいちょい鷲《わし》に乗せてやるわけにはゆかないぜ」
「そんなことをいわないで、おれを弟子《でし》にしてくれよ、な、たのまあ、そのかわりに、おまえのためなら、おれはどんなことだって、いやといわないからよ」
「きっとか」
「きっとだ!」
「じゃ。さっそく一つ用をたのもうかな」
「たのんでくれよ、さ、なんだい」
「大役だぜ」
「いいとも」
「他人の用ばかりしていると、おまえの主人の鼻かけ卜斎《ぼくさい》に、叱《しか》られやしないか」
「大じょうぶだってことさ、おらあもうあすこの家《うち》をとびだして、いまでは徳川家《とくがわけ》の……」
 と、いいかけて、さすがの低能児《ていのうじ》も、気がついたらしく、口をにごらしながら、
「いまじゃ、天下の浪人《ろうにん》もおんなじ体《からだ》なんだ」
「ふうむ……じゃね、これからおいらのために、ちょっとそこまで斥候《ものみ》にいってくれないか」
「斥候《ものみ》に?」
 蛾次郎《がじろう》ぎょっと、目を白くした。
 竹童《ちくどう》は、ことさらに、なんでもないような顔をして、
「このあいだから、雨《あま》ケ岳《たけ》に陣取っている、武田伊那丸《たけだいなまる》さまの軍勢が、人穴城《ひとあなじよう》へむかってうごきだしたら、すぐここまで知らしてくれりゃいいのだ」
「そしたら、いったい、どうする気なんだい?」
「どうもしないさ、この鷲《わし》にのって、大空から戦見物《いくさけんぶつ》にでかけるのさ」
「おもしろいなあ、おれもいっしょに乗せてくれるか」
「やるとも」
「よしきた、いってくら!」
 よく人のだしにつかわれる生まれつきだ。年下の者のおちょうしにのって、もう、一もくさんにかけていく。
 そのあとで竹童《ちくどう》は、鷲《わし》の足をといてやった。クロは自由の身《み》になっても、竹童のそばを離れることなく、流れる水をすっていると、かれはまた火打石《ひうちいし》を取りだして、そこらの枯葉《かれは》に火をうつし、煙の立ちのぼる夕空をあおぎながら、
「おそいなあ。あのぐずの斥候《ものみ》を待っているより、またじぶんでそこいらの木へ登ってみようかしら」
 と、ひとりつぶやいたとこである。
 すると、いつの間《ま》にか、かれの身辺をねらって、じりじりとはいよってきたふたりの武士《ぶし》——それはまえの甲虫《かぶとむし》だ、いきなり飛びついて、
「こらッ、あやしい小僧《こぞう》!」
「うごくなッ」
 とばかり、竹童の両腕とってねじふせた。竹童はまったくの不意打ち、なにを叫ぶ間《ま》もなく、跳《は》ねかえそうとしたが、はやくも、甲虫の短刀が、ギラリと目先《めさき》へきて、
「うごくと命《いのち》がないぞ、しずかにせい、しずかにせい」
「な、な、なにをするんだい!」
「なにもくそもあるものか、きさまこそ、餓鬼《がき》のぶんざいで、この松明《たいまつ》をなんにつかう気だ、文句《もんく》はあとで聞いてやるから、とにかく天子《てんし》ケ岳《たけ》のふもとまでこい」
「や、ではきさまたちは徳川方《とくがわがた》の斥候《ものみ》だな」
「おお、亀井武蔵守《かめいむさしのかみ》の手の者だ」
「ちぇッ、そう聞きゃおいらにも覚悟がある」
「生意気《なまいき》なッ」
 たちまち、大人《おとな》ふたりと、竹童との、乱闘《らんとう》がはじまった。
 こいつ、体《からだ》はちいさいが、一すじなわではいかないぞ——とみた甲虫《かぶとむし》は、やにわに短槍《たんそう》をおっ取って、閃々《せんせん》と突いて突いて、突きまくってくる。
 あわや、竹童あやうし——と見えたせつなである。にわかに、大地をめくり返すような一陣の突風《とつぷう》! と同時に、パッと翼《つばさ》をひろげた金瞳《きんどう》の黒鷲《くろわし》は、ひとりを片《かた》つばさではねとばし、あなよというまに、あとのひとりの肩先へとび乗って、銀の爪《つめ》をいかり立ッて、かれの顔を、ばりッとかいて宙天《ちゆうてん》へつるしあげた。
「わッ!」
 と、大地へおちてきたのを見れば、目も鼻も口もわからない。満顔《まんがん》ただからくれないの一コの首《くび》。

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