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神州天馬侠106
日期:2018-11-30 19:12  点击:326
 虎穴る鞍馬の竹童
 
    一
 
 軍令《ぐんれい》をやぶって抜《ぬ》けがけした轟《とどろき》又八が、伊那丸《いなまる》がたのはかりごとにおちて、ついに首をあげられてしまったと聞き、人穴城《ひとあなじよう》のものは、すッかり意気を沮喪《そそう》させて、また城門を固《かた》めなおした。
 敗走の手下から、その注進をうけた丹羽昌仙《にわしようせん》は、
「ええいわぬことではないのに……」と苦《にが》りきりながら、望楼《ぼうろう》の段を踏《ふ》みのぼっていった。
 そこには、宵《よい》のうちから、呂宋兵衛《るそんべえ》と、可児才蔵《かにさいぞう》が床几《しようぎ》をならべて、始終《しじゆう》のようすを俯瞰《ふかん》している。
「呂宋兵衛さま」
「おお、軍師《ぐんし》」
「又八は城外へでて討死《うちじに》いたしました」
「ウム……」
 と、呂宋兵衛は、じぶんにも非《ひ》があるので、決《き》まりわるげに沈んでいたが、
「おお、それはともかく——」
 と、話をそらして、
「伊那丸《いなまる》と徳川勢《とくがわぜい》との勝敗《しようはい》はどうなったな。かすかに、矢さけびは聞えてくるが、この闇夜《やみよ》ゆえさらにいくさのもようが知れぬ」
「いまはちょうど、双方必死《そうほうひつし》の最中《さいちゆう》かと心得ます」
「そうか、いくら伊那丸でも、三千からの三河武士《みかわぶし》にとりかこまれては、一たまりもあるまい」
「ところが、斥候《ものみ》の者のしらせによると、にわかに四、五百のかくし部隊があらわれて、亀井武蔵守《かめいむさしのかみ》をはじめ、徳川勢をさんざんに悩《なや》めているとのことでござる」
「ふむ……とすると、勝ち目はどっちに多いであろうか」
「むろん、さいごは、徳川勢が凱歌《がいか》をあげるでござりましょうが」
「さすれば、こっちは高見《たかみ》の見物、伊那丸の首は、三河勢《みかわぜい》が槍玉《やりだま》にあげてくれるわけだな」
「が、ゆだんはなりませぬ。なるほど、伊那丸がたは、徳川の手でほろぼされましょうが、次には、勝ちにのった三河の精鋭《せいえい》どもが、この人穴城《ひとあなじよう》を乗っとりに、押しよせるは必定《ひつじよう》です」
「一難《いちなん》さってまた一難か。こりゃ昌仙《しようせん》、こんどこそは、かならずそちの采配《さいはい》にまかす。なんとか、妙策《みようさく》をあんじてくれ」
 と、とうとう兜《かぶと》をぬいでしまった。
「仰《おお》せまでもなく、機《き》に応じ、変にのぞんで、昌仙《しようせん》が軍配《ぐんばい》の妙《みよう》をごらんにいれますゆえ、かならずごしんぱいにはおよびませぬ」
「それを聞いて安堵《あんど》いたした。オオ、また裾野《すその》にあたって武者声《むしやごえ》が湧《わ》きあがった。しかしとうぶん、人穴城《ひとあなじよう》は日和見《ひよりみ》でいるがいい、幸《さいわ》いに、可児才蔵《かにさいぞう》どのも、これにあることだから、伊那丸がたがみじんになるまで、一|献酌《こんく》むといたそう」
 手下にいいつけて、望楼《ぼうろう》の上へ酒をとりよせた呂宋兵衛《るそんべえ》は、昌仙《しようせん》と才蔵《さいぞう》をあいてに、ゆうゆうと酒宴《さかもり》をしながら、ここしばらく、裾野《すその》の戦《いくさ》を、むこう河岸《がし》の火事とみて、夜《よ》をふかしていた。
 するとにわかに、星なき暗天にあたって、ヒューッという怪音がはしった。その音は遠く近く、人穴城の真上をめぐって鳴りだした。
「風であろう、すこし空が荒れてきたようだ」
 杯《さかずき》を持ちながら、三人がひとしく空をふりあおぐと、こはなに? 狐火《きつねび》のような一|朶《だ》の怪焔《かいえん》が、ボーッとうなりを立てつつ、頭の上へ落ちてくるではないか。
 

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