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技巧的生活27
日期:2018-12-06 22:14  点击:305
    二十七
 
 
 陽気でお人好しの女、とゆみ子はるみのことを考えていた。たしかに、るみにはそういう部分もあるが、しかしもっと大きな隠れた部分があるようだ。
 間違っていた、とゆみ子はおもい、意味なく周囲を見まわした。あちこちの椅子に坐っている女たちが、ふたたび部厚い磨ガラスで被われ、朧ろげで曖昧なものに戻っていた。その眺めは、無気味だった。
 もう一つ、ゆみ子の頭に這入りこんできたものがあった。先刻、油谷は「ヤキモチを焼かれているような気分」と言った。はたして、そうなのだろうか。心の中に、油谷を独占したい気持が生れているのだろうか。自分にとって、気がかりな人物以上のものに、油谷が変ろうとしているのだろうか。
 今夜は、油谷と一緒に帰ろう、るみを押除けても、一緒に帰ろう、とゆみ子はひそかに心を固めた。自分の心を確かめてみよう。また、そのときのるみの気配で、るみと油谷の関係についての手がかりが掴めるかもしれない。
 酒場に勤めるようになってからの三ヵ月半の間、自分から男を誘ったことは一度もない。誘うことに、こだわりがあり、十一時半に近づくにしたがって、重い塊がゆみ子の咽喉の奥に痞《つか》えた。
 その夜も十一時過ぎに電話が鳴り、バーテンの木岡が応答して切った。依然として、木岡はよう子のためのメッセンジャーの役目を果している。今夜もまた、よう子はベルト・コンベヤに載って、運ばれてゆく。ゆみ子はそういうよう子の生き方を気楽なものにおもい、一瞬、羨望の気持をもった。それは、痞えている重い塊のせいだが、そうおもった自分にゆみ子は怯えた。
 しかし、ゆみ子が口を開く前に、油谷は気軽な口調で、ゆみ子を誘ったのだ。
「今夜、一緒に帰ろうか」
 同じ席に、るみがいた。やはり、るみとは関係がなかったのか。いや、この前もるみのいるところで油谷は誘ったのだ……、とゆみ子はおもい、帰国したその夜に誘うのだから、あるいは油谷は独身なのか、ともおもった。しかし、そのとき、るみの声がした。
「お宅に帰らなくていいのかしら」
「帰るさ、結局は帰るわけだ」
「おさかんなことね」
 咎め立てる口調ではない。そこには、むしろ陽気でお人好しのるみが坐っているようだった。
 店を出て、タクシーに乗ってから、ゆみ子は迷いながら訊ねてみた。
「油谷さん、るみちゃんとは……」
「るみか、あれは気にしないでいいんだ」
「気にしないでいいって……」
「るみとはいつも友好関係が崩れないで済むようになっている。今夜こうやって、きみと一緒に出てきても、一向にかまわない」
「かまわない、って言うと、油谷さん、るみちゃんと関係があるの」
「え、知らなかったのか」
 余計なことを言ってしまった、という表情ではない。雨戸を閉めきった部屋に朝からこもっていた男が、夕方おもてへ出て、
「おや、雨降りだったのか」
 と、言うときの口調である。むしろ唖然として、ゆみ子は油谷の顔を見た。
「ところで、今夜、いいんだろう」
 平然として、彼は誘った。
「厭、厭よ」
「厭、なぜだろう」
「だって……、油谷さん、いったいるみちゃんとどういう関係なの」
「気にしなくてもいい。つまり、きみが気にしなくてもいい関係なんだ」
「というと、関係がないの」
「案外、子供なんだな。関係がないわけがないだろう」
「それなら、どういう関係か教えて頂戴」
「教えることはできないね。るみのために、それはできない。おれは口が堅い人間なんだ。きみも安心していいよ」
 油谷は、ぬけぬけした口調で言った。
 厚顔無恥……、とゆみ子は心の中で呟いてみたが、その厚かましさにふと心が動いた。それは、部厚い胸板に頬をすり寄せている感じに似ていた。

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