四十五
ゆみ子の部屋で、油谷の躯は、逞しく充実した。最後まで、萎えなかった。
めずらしく、ゆみ子は乱れた。躯がしだいに摩《ず》り上り、頭が布団からはみ出た。髪の毛から抜けた一本のヘアピンが、畳の上に落ちたかすかな音がゆみ子の耳に届き、それからあとしばらくは、外界の音はなにも聞えなくなった。
落着きが戻ってきたとき、ゆみ子の掌が当っている油谷の背中は、汗で濡れていた。その額も、濡れて光っていた。しかし、その汗は、乏しい力を搾り上げて出てくる脂汗ではなく、はげしい運動のあとの健康な汗であった。
油谷の顔いちめんに、喜びの色が浮んでいた。その色で、いままでの彼が、不能から回復することに惨憺とした努力を重ねていたことが分った。
「一緒に暮そう」
ゆみ子の裸の肩の肉を掴んで、油谷が言った。
「一緒……、いつも一緒に暮せるの」
「いつも、というわけにはいかないが……」
ゆみ子は、部屋の中を見まわした。部屋というよりも、自分の身のまわりを眺める心持である。戸外はまだ明るい。カーテンの隙間から覗いているガラス窓が、夕日で赤く染まっている。ゆみ子は答えず、黙って、油谷の額をタオルで拭った。額にタオルをかるく当て、化粧のパフを使うように、汗を拭う。
油谷も、部屋の中を見まわした。これは、あきらかに、部屋自体を眺めている。そして、言った。
「暑いな。ルーム・クーラーを買わなくてはいけないな」
依然として、ゆみ子は黙っていた。片方の肩が、すこし持上った。それを拒否の姿勢のように、自分で感じた。しかし、何も言わない。曖昧な顔のままである。