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決められた以外のせりふ118
日期:2019-01-08 21:26  点击:330
 山盛りの蚕豆《そらまめ》
 
 
 蚕豆が小皿にのって、澄まして出てくると、がっかりする。
 子供のころ私の家では、おやつに、蚕豆をよくたべた。大きなどんぶりに、山盛りにした塩ゆでの蚕豆を、お茶をのみながら、みんなでたべる。脇に盆をおいて、皮はその中へ入れる。たべ終ると、盆の方が山盛りになる。
 そういう風に、惜しみなく、という感じでたべないと、蚕豆はうまくない。錦手の小鉢かなんかに、ちょいと八、九粒、いかにもはしりめいた小柄なのがおさまっていると、へんな気がする。そんな、御大層な豆ではない。
 枝豆も、おやつになることがあった。しかし枝豆は、ときどき、いやなにおいのするやつがあり、うっかりそれを噛むと、とんでもないことになるので、あまり好きではなかった。蚕豆には、そういうことがないのはなぜだろう。
 一体に、大正末年、昭和初年の東京のおやつは、ずいぶん質素なものだったという気がする。
                                               ——一九六〇年六月 週刊文春——

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