組み合せ服
組み合せ方しだいで、幾通りにも変化する服、というのを、新聞や雑誌でみることがある。主に女性用で、一着の服を、着る当人の気分の上でも、見た眼にも四着分、五着分にはたらかせようというねらいである。持ちもその方がいいという。
なるほど、わるくない思いつきだろう。
しかし実際には、なかなかそうは行かないだろうと、私は思う。
一足の靴を穿きつぶすよりは、二足の靴を一日おきに穿いた方がそれぞれ長持ちして、いいに決っている。
だが、靴が二足あれば、どちらかが穿きよい靴、好きな靴になり、そちらばかり穿くことに、かならずなるのだ。
五通りもの組み合せ方が、万遍なくできる人は、よほど合理的な人だろうと思われる。
こういう種類の合理的設計は、どうも私は苦手である。
——一九六〇年六月 週刊文春——