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蛇神1-5-6
日期:2019-03-24 22:23  点击:325
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「あれは……?」
 堂内の暗さと、人面蛇身の像の異様さに目を奪われて、すぐには気づかなかったのだが、大神像の背後にもう一体の像がひっそりと安置してあることに日登美は気が付いた。
 それは、大神の恐ろしげな姿とは全く対照的な、優美な女性の立ち姿だった。少し憂いを含んだ表情で、目を閉じ、両手を祈るように胸の前で合わせている。
 よく目をこらして見ると、その顔や身体つきには、女性というよりも童女といった方がふさわしいような幼さがそこはかとなく漂っていた。
「あれは……一夜日女命《ひとよひるめのみこと》様の像でございます。俗に、一夜様とお呼びしております。大神の……神妻でございます」
 そう言って、住職は、七年に一度の大祭に行われる神事について説明した。
「そのことなら聖二さんから聞きました。今年の一夜日女は春菜がやることになったので……」
 日登美が何げなく言うと、住職は、えっというように目を剥《む》いて、日登美を見た。
 その反応の仕方に日登美の方が驚いたくらいだった。
「今年の一夜様は真帆様だと伺っておりましたが……」
 住職は自分の耳を疑うとでもいうような顔で言った。
「いえ、それが」
 真帆に障りが生じて、急遽《きゆうきよ》、一夜日女の役は春菜に代わったことを告げると、
「それは……」
 そう言ったきり、住職は、すぐに言葉が出てこないようだった。
 春菜が一夜日女になると聞いたとたんに住職が示したこの反応は、朝食の席での、神家の人々のあの奇妙な反応とよく似ていた。
「おめでとうございます……」
 住職はようやくそう言った。顔には笑みが戻っていたが、どこか無理をして笑っているようなぎこちなさがあった。
 それは、神琢磨が示した反応と全く同じだった。
「この村では、一夜様に選ばれるというのは、末代にまで語り継がれるほどの名誉とされているのです。当の一夜様だけではなく、一夜様のお母上にとっても……」
 名誉などどうでもいいが、と日登美は思いながら、なんとなく奇妙な違和感のようなものを感じはじめていた。
 たかが祭りの主役になることが、それほどまでに大切なことなのか……。
 都会育ちの日登美には全く理解できなかった。日登美にとって、祭りというのは、ふだんよりも少し晴れがましい日程度の意味しかもっていなかったからだ。
 しかし、この村の人々にとって、祭りはただの気晴らしではないようだった。天照大神の御霊をこの地に封じ祀りあげているという、さきほどの住職の物々しい話からしても、それは窺《うかが》い知ることができる。
 もっとも、こんな物々しいことを考えているのは、神家の人々だけなのかもしれないが……。
 そのとき、鐘つき堂の方から、ごーんという鐘の音が聞こえてきた。
「おお、もう正午か」
 住職は、空を仰いでそう呟き、
「どれ、お昼に蕎麦《そば》でも打ちましょう」と言った。

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