蛍雪(けいせつ)
笑府
東晋の車胤(しやいん)は家が貧しく、灯油を買うことができなかったので、夏の夜は薄絹の袋に数十匹の蛍(ほたる)をいれてその明りで読書をした。孫康(そんこう)も家が貧しく、やはり灯油を買うことができなかったので、冬の夜は雪を積み上げてその明りで読書した。二人はこうして、夜を日についで勉強した甲斐があって、後、出世して車胤は吏部尚書(りぶしようしよ)になり、孫康は御史大夫(ぎよしたいふ)になった。
ある日、孫康が車胤を訪ねて行ったところ、車胤は家にいなかった。あの勉強家が、と孫康は不審に思い、
「どこへ行かれた?」
とたずねると、門番が、
「たぶん、蛍を取りに行かれたのかと思います」
と答えた。
その後、車胤が答礼のために孫康を訪ねて行ったところ、孫康は庭に出てぼんやりとたたずんでいた。車胤が不審に思って、
「どうして読書をなさらないので?」
ときくと、孫康はふり返っていった。
「空模様を見ていたのです。このぶんでは雪は降りそうにもありませんな」