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言葉をください46
日期:2020-05-15 13:20  点击:265
起きて寝よう

私は酔っぱらいでもないのに車掌さんに起こされたことが二、三度ある。電車や列車の中でねむるなんて、レディとしては最も恥ずべき行為である。
言訳はしたくないのだけれど、これは目を病んで本が読めなくなった二年ほど前からの現象である。光に向くと涙がいくらでも出てくるので目をつむる。電車の中は適温でリズミカルで、私はそのままねむってしまう。
首を窓枠にもたせかけてねむるのだけは悔い改めた。あれは口がひらくのでみっともない。うつむいてまっすぐな姿勢でねむっているつもりである。
でも車中の人を見ているとたいていは左右どちらかへ倒れかかる。四十五度ぐらいで元へ戻る、また倒れかかる、のくり返しである。車内が空いてくると若い人、中でも高校生の女の子やお嬢さんは席を替わって、ねむりおじさんやおばさんを敬遠する。あわれなのはねむり人形である。支柱を失ったやじろべえのようにゆらゆらとぶざまな恰好である。
私もああなのだな、恥ずかしいと思う。思いながらついうとうと。うとうとから深いねむりに落ちていく。
一度、ずっとその肩に私をねむらせてくれた青年があった。終点ですよとやさしく起こされて私は赤面した。
「ごめんなさい、どうしましょうわたし」
「いいですよ、おつかれなんですね」
青年は足早にプラットホームを去っていった。その日から私はねむる人に肩でも何でも貸してあげるようになった。
私はバスでもねむってしまう。目をつむったらもうダメなのだ。停留所を幾つも過ぎて車庫へ入る寸前にまだ一人残っているのをみつけて運転手さんがおどろいたこともある。
 ペンがぽろりと手から落ちる。ちょっとと思って横になる。枕は広辞苑。さすがに首が痛くて寝返りばかり打っているのが自分でもわかっているのだ。
起きよう、起きてベッドで寝ようと思う。そして夢の中で私はちゃんとパジャマに着替える。足を伸ばす。いい気持ちだ。やっぱりベッドの中はいいなあと思っている。
電話のベルではね起きる。朝やら夜やらわからない。服を着ているのだから多分昼なのだろう。「ハイ、川柳展望社です」──「何が展望社なのよ。夜中の一時よ、あなたまたうたた寝してたんでしょう。風邪引くよ」
ともだちなりゃこそなけりゃこそ。叱られてやっと、私はここが机の前で、パジャマどころか三時間も広辞苑を枕にしていたことに気付く。私は首をコキコキ鳴らして、しゃんと起きてちゃんと寝ようと思うのである。
今の期待は津波がくるというそれだけ

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