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言葉をください52
日期:2020-05-15 15:22  点击:515
娘からの手紙

「──お母さん、こないだ親知らずを抜きました。そのとき歯医者さんが『あンたの舌はどう見ても大きい。鏡をごらん、ホラね、舌のぐるりに歯形がついているでしょう。このままでは歯列も歪むし、義歯にするとき大変だよ。切ったらどう?』と、いとも簡単に言われたのです。
お母さん、舌を切るってハサミでぐるッと切って縫合するのかしら。まるでアップリケよね。そんなことが現代医学ではできるのでしょうか。私の悩みは深いのですぞ。思い余って『責任者出てこいッ』と叫んだらひょっこりお母さんが出てきたので、ご相談を兼ねて責任をとってもらおうと手紙を書いた次第であります。返事をぐずぐずしていると私切るわよ。本気よコレ。あらあらかしこ」
「──お母さん、友だちと京都のミヤコホテルへ泊っています。ゆうべのこと、バスを使ってさて流そうとすると、黒いゴムの、そうね、正露丸を二ツ三ツ練り合わせたようなものが沈んでいるではありませんか。しまった、バス栓を欠いたか……と調べましたがそれはちゃんとあるの。ふしぎなのでベッドへ持って入ってずっと考えました。友だちにも見せたのだけどわからない。
そして朝、私はとびあがったのです。おヘソが無いのです。もうもうビックリして。やっと気がつきました。ゆうべの黒いゴムは私のヘソのゴマだったのです。中学生のころからの悩みだった黒いおヘソ。それが一夜にしてコロンと取れたのでした。
私二十歳、白いおヘソのレディとなりました。思えばあのゴマは生まれたときからあったのです。そうでなければゴムのようにはならないでしょ。ずーッとお母さんとつながっていた臍の緒と訣別しました。したがって母上は今日から立派な他人。以後そのようにおつきあいしますのでよろしく。あらあらかしこ」
 たくさん貰った娘の手紙の中でこの二通の印象が特に鮮明なのは、からだに関する内容のせいだと思う。女は産みの性をもつゆえに、自分のからだを通過してこの世に存在する者に対する執着が強い。
そのくせ母と娘は愛憎甚しい関係にある。同性ゆえの葛藤は嫁と姑に代表されるが、血を分けた母と娘のそれは更に深刻である。殊にも異性が介在する場合の娘の母離れはみごととしか表現できないものがある。
離れながら放せない血というもののかなしみを女は産みつづけるのであろうか。
花こぶし母を叱るは順送り
生涯母を疑いつづけ孝尽くす
母を捨てに石ころ道の乳母車
徳用燐寸《マツチ》みつめておれば母になる
母に勝つために母から生まれたる
天国や星はやさしきものならず

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