妻の刃を渡ってくるのは誰だろう
刃を真ん中において、夫婦が対峙している。よく知っているはずの人物が別人としてこちらに迫ってくる・・・。この句で夫婦ゲンカの刃傷沙汰を想像するのは面白くない。平穏ないつもの台所の風景で、ふとした瞬間に包丁をもった妻が振り向いた、その瞬間、関係性の謎が浮上してくると読みたい。普段は「夫婦」といった役割分担や過去の記憶によって覆い隠されているが、現在の他者との関係はつねに測りがたい部分を伴う。「誰だろう」は、そうした謎に不意をつかれて呆然として洩らした呟きだろう。