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正しい乙女になるために46
日期:2020-10-31 19:01  点击:249
 お月見に行く
 
 今回はお月見のお話です。
 中秋の名月。お月様なんて何時だって素敵なものですから、わざわざこの日の満月を観賞しなくったってよいのですが、それにどちらかといえば恥ずかしながら──おおサロメよ、赤く輝くルナこそが我等が崇拝する不思議の天体──だったりもするのですが、今年は何故か名月観賞と俗っぽく洒落こんでみたのです。
 京都府立植物園は中秋の名月の日、年に一度だけ夜間開放を行います。無料開放とあって植物園までの真っ暗な道を、人々がゾンビのようにぞろぞろと歩きます。こんなに沢山の人が押し寄せれば、僕の分のお月様がなくなるのではないかと心配になります。植物園の園内にこれといった照明はありません。木々の間を歩きながら石に躓《つまず》き、枝に頭をぶつけ大変です。暫く行くとぼうっと灯りが見えてきました。それは地から夜空に向けて蛍の発光のようにささやかな光。近づいてみると小さな竹の筒が幾本か地面に立てられ、筒の中には水に浮いたキャンドルが点《とも》っているのです。嗚呼、幽玄。遠くのほうでは強い光、あれは篝火《かがりび》です。笛の音が聴こえます。どうやら中央の芝生の広場ではコンサートが行われているようです。
 人気の少ない道を選んで歩きます。夜中の植物園は何とぞくぞくするものなのでしょう。行けども行けども暗い陰ばかし、ひんやりとした夜風にのって少々エロチックともいえる樹々の匂いが鼻をさします。せっかく人のいない道を歩いていたのに、すぐに人通りの多いスクエアに出てしまいました。天体望遠鏡を設置した星マニア達が、丁度植物園を囲む森の背が低くなった月の進路に向かって、満月が上がってくるのを待ち構えています。「この望遠鏡ならクレーターくらいバッチリですよ」マニアは羨ましそうに望遠鏡を横目で見る僕にそう自慢しますが、覗かせてはくれないようです。
 さて、黒い森の向こうに微かに満月は姿を現しました。もうすぐ蒼い夜空の頂きにたいそう立派なお月様はお昇りあそばすでしょう。が、雨です。突然の大雨。お月様は厚い雲の彼方へとお隠れになりました。
 僕のお月見のお話はこれでおしまいです。

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