女学生なら京都で食せよ冨美家なべ
女子高生、女子大生なんて呼びかたはお下劣ですから、女学生と申しましょう。さすればメールよりも交換日記、クレープよりもあんみつでございます。
冬がくれば京都は三条河原町を少し下り、BALビルの丁度向かい辺り、地階に降りたところにある「冨美家」の鍋焼きうどん「冨美家なべ」を食さぬ訳にはまいりません。冨美家といえばその昔、少し離れた四条通りに女のコしか入れない甘党専門店があったのですが、現在は錦市場の本店とこの河原町店のみになってしまいました。男子禁制のアナクロなお店がなくなってしまったのは残念ですが、それでも河原町店にしてもどこかそんな雰囲気をかもしだしているのは思い過ごしでしょうか。勿論、あんみつもありますが、やはり名物「冨美家なべ」がいとよろし。カウンターのみの小さなお店は妙に安普請で、こくのある鍋焼きうどんの汁はほんのりと甘い。この甘い汁を舌の上で転がす度に、「女学生の為の甘党なうどん」を感じてしまうのです。
太いみつあみを結わえ、チェックのマフラーをだんご結びで首にして、制服の上から学校指定の野暮なコートを着たまま額に汗なんぞをして、「猫舌なのよ」と言い訳しつつそれでも色気構わず豪気にズルズルと、うどんをすするが美しき女学生。お友達と先輩の悪口やアイドルスターの噂をしながら、中に入ったお餅を見つけ「こんなの食べたら太ってしまう」と云いつつ、ペロリと平らげるが流儀というものです。決して恋人が出来ても女学生は冨美家に彼氏を連れては行きません。だって、やっぱり、何故かしら、ここは乙女の甘党屋、吉屋信子的世界なのですもの(お姉さまとなら来てみたいわね)。
冨美家なべは、値段が五百八十円というところもポイントです。女学生は貧乏でなければなりません。学校の帰りお友達同士で六百五十円以上使うのは邪道です。おなかがふくれたら四条大橋を渡り、河原でいちゃついているカップルに石を投げてやりましょう。名曲喫茶『みゅ〜ず』か『ソワレ』でお茶を飲んでもいいですけど。新京極は繁華街、不良の誘惑があるから余り遅くまで遊んでいてはいけませんよ。さぁ、「天には御使い」でも歌いながらおうちに帰りましょう。