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正しい乙女になるために69
日期:2020-10-31 19:15  点击:262
 諦念──プロポーズ
 
 どうしてこんなにも好きになってしまったのでしょう。後、数日経てば逢えるというのに、僕は今君と逢えぬ事実に耐えきれず、帰る道すがら情けなく、ボロボロと泣き崩れてしまうのでした。これ程までに好きになる筈ではなかった。それなのにあの日以来、目覚める毎に昨日より一層、君のことが大切になっている自分を確認するのです。
 君はいつもおどおどと、謝ってばかりいます。何に対しても驚くくらいに自信がなく、自分の気持ちを抑圧して人に合わせるのです。そして時折そのフラストレーションを一人こっそりと暴発させ、その後暴発した自分を反省いたします。貴方といると勇気が凜々湧いてくる、全てが上手くいく気がすると云いながらも、君は僕に対してさえずっと敬語で話し掛けます。そんな君だから、僕は君の中に埋没してしまったのでしょう。君のことを想えば限りなく優しくなってしまうのです。優しさを肯定してしまえば、硬質な美意識はなし崩し。その最後の砦を死守することが、僕の存在の全てでした。でも、もう駄目なのです。いくら君の嫌な部分、欠点を数えてみても、恐ろしい程君を求めてしまうのです。まるで麻薬患者のように……。互いの身体が粘土であればいいのに。そうすれば混ざり合える。洪水のような優しさに飲み込まれ、僕は多分、すっかり気が違ってしまったのです。
 君は何故か電車の中で寝てしまいます。君が唯一、無防備であるその瞬間が、僕は一等愛しい。起きた君は例外なく眠ってしまったことを謝罪します。いつか意地悪で、一緒にいると退屈だから寝てしまうのでしょうと訊ねると、君は眼に涙を一杯ためながら首を横に激しく振りましたね。あの時は君の首がちぎれるのではないかと本気で心配いたしました。
 私は憶病なのですと君は云います。でも、本当に憶病なのは君と僕との、一体どちらなのか。君が不安に思うこと、守ろうとするものははっきりとしています。僕が君以上に守ろうとするものは何なのか。僕は何を恐れているのか。僕は己の卑劣さを呪います。しかしようやく、僕はその卑劣さと訣別することが出来ました。君という存在は限りない絶望と希望に勝る。逃げ道を塞ぎましょう。愛という凡庸さを抱えて破滅することを、僕は敢えて選択いたします。
 今度逢った時、君がまだ僕のことを見限らないでいてくれたのなら、お願いです、僕にプロポーズをさせて下さい。

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