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ぐうたら人間学05
日期:2020-10-31 20:04  点击:239
 過去にさいなまれる男
 
 ずっと前、あるアパートで生活していた時のことです。
 毎夜、真夜中に、私の部屋の上で、若い男の叫びがする。
「アアッ、アーッ。アアッ」
 諸君は、早まってはいけない。彼は独身だし、その上、女を自分の部屋の中に引きずりこむような男じゃないよ。
 にもかかわらず真夜中に、
「アアッ、アーッ。アアッ」
 悲鳴とも絶叫ともつかぬ声をたてる。なぜ彼はそのような声をたてているのか。わかった人は小説家になれる素質がある。あんたはどう思いますかね。
「その男は頭が可笑《おか》しいんでしょう」
 ダメ。そんな答えでは。彼はね、夜中に布団を引っかぶっていると、昨日、今日のあるいは過去の、自分のやった恥ずかしいこと[#「恥ずかしいこと」に傍点]が一つ一つ突然心に甦って、居てもたってもいられなくなり、
「アアッ、アーッ。アアッ」
 思わず、大声をたてているのです。
 何だ、そんなことか、と思われる人は気の強い奴。気の弱い奴なら、この夜の経験は必ずあるはずだ。
 それがないような奴は、友として語るに足りぬ。

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