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ぐうたら人間学79
日期:2020-10-31 20:07  点击:298
 女性への不信感
 
 思い出は二十五年前にさかのぼる。二十五年前それはまだ中学生だった。女性というものを知らなかった。
 あのころの思い出の一つにこういうのがある。私は女性から凌辱《りようじよく》をうけたのである。しかも他の人が見ている前で。十七歳の中学生だった私。まだ童貞だった私。その私が彼女たちから集団的に凌辱を受けたのである。それは今、思いだしても辛い、恥ずかしい経験ではあるが、清水の舞台から飛びおりる気持で、赤裸々に告白したい。
 君、そうゴクリと唾を飲んで膝をのりだすな。話すといったら本当に話すんだから。
 あれは大東亜戦争が始まって三、四年たったころだった。場所は神戸の三宮だった。そして時刻は……もういいだろう。
 中学生の私はその日、親の眼を盗んで学校の帰り映画を見(当時は父兄同伴なしでは映画に行ってはいけなかったのだ)一人、トボトボとその三宮を通りかかったのである。
 その時、私は数人の女性から急に呼びとめられたのである。彼女たちはグルリと私をとりかこんだ。
 怖ろしかった。こわかった。逃げだそうにも逃げる勇気さえなかった。すると彼女たちの一人が猫なで声で言った。
「あんた、中学生でしょ」
「はい」
 うす笑いをその女は浮べ、うしろを振りかえり、同輩たちに眼くばせをした。そしてその一人がやにわに片隅に私をつれていき、私の手に|×(〔A〕)を握らせた。(一字伏字)
「|××(〔B〕)なさい」(二字伏字)
「えッ」
「|××(〔C〕)なさい。中学生なら|××(〔D〕)るんでしょ。早く早く」(四字伏字)
 彼女の顔は紅潮し、眼は少しつり上っていた。
 この光景を詳細に書きたいのであるが、私は恥ずかしい。しかし、この本の読者はちょっとやそっとのことでは驚かないたくましい人たちに違いない。そこでこの四つの伏字を思いきって順に埋めていこう。
 A=紙、B=読み、C=読み、D=読め
 すなわち彼女たちは国防婦人会の会員たちであり、中学生のくせに夕方遅くまでブラブラしている私に「非常にあなたは非国民的です」という紙を手渡したのであった。
 子供心にも私は何と軽薄な、と思った。私がではない。彼女たちがである。私は彼女たちのとりつかれているこの正義感がはなはだしく不快であった。自分だけが正しいとして他を裁く彼女たちの独善主義が、子供心にもひどくイヤだった。
 その後、独善主義とは女の一番おちいりやすい習癖だと私は知った。男と女とくらべると、たしかに女のほうが「自分が悪い」とは考えぬ。たとえ、おのが悪さを、キリキリのキリまで自認せざるをえない状態になっても、女性は次のような文句で自分を弁解する。「私をそんな風にしたのはあんたじゃないの」あるいは「どうせ、あたし一人が悪者になっていればいいんですから」

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