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ぐうたら交友録58
日期:2020-10-31 20:48  点击:316
 映画監督はよきかな
 
 コンケイはまたある日、電話をかけてきて私と吉行にすぐ来るように言った。私と吉行とが彼の命じた旅館に飛んでいくと、ニコニコした彼が座敷の中であぐらをかき「いやはア、耳よりな話があるだア」
 そして間もなく有名な大女優、Yさんなどが所属しているプロダクションのS氏が姿をみせた。S氏は、
「実は」と声をひそめた。「現在、映画界の不況を打開するために、私は三先生にひとつ監督をやって頂き、それぞれ御自分の作品を映画化して頂きたいと思い、近藤先生に今日の集まりをお願いしたわけです」
「監督?」
「そうです。もっとも先生たちの一人一人には専門の助監督さんをつけますから技術的にも心配はいりません。どうです、その気持はありませんか」
 私は横目で吉行をみると吉行はクチビルをとがらせ、嬉しさをこらえているようである。コンケイはもちろん膝をのりだし、私は私で松竹助監督を受けてあわれや落っこちた経験があるだけに長年の夢、やっとかなえられる幸福感にうっとりとしていた。
「いかがですな」
「やらせてもらいましょう」
 それから三人でS氏をまじえ、自分の映画にしていい作品の内容を相談しはじめた。
 その相談が終って外に出た時も我々の興奮いまださめやらず、
「少し飲んで帰ろうか。君は主演女優は誰にするつもりだ」
「ぼくはN嬢がいい」
「遠藤はA嬢がいいのではないか」
 かくて三人、銀座のバーにおもむいてホステスたちに、
「ひょっとすると映画の監督をするかもしれん」
 と何げなく呟くと、驚いたことには平生とはサービスががらりと違ってくるのである。吉行はともかく、私のように平生からモテない客までも煙草をだせばパッと火をつけてくれるのである。そして一人のホステスが私の耳もとでそっとささやいた。
「ねえ、あたしをその映画にだしてくれない」
「うん、だしてやるぞ」
 吉行や近藤も盛んにそばのホステスに、
「君を主演女優の候補者の一人としよう」
 と、さっきにまして我々の待遇はいやましに向上し、さながら竜宮城にて乙姫さまたちにとり囲まれた浦島太郎の心境である。
「ケッ、ケッ、ケッ、こりゃあ愉快だア」
 その酒場を出ると我々三人は肩を叩きあって悦び、
「もう、二、三軒この手でまわろう」
 あっちのバーでも、こっちのバーでも、
「君を主演女優の候補者として考えたい」
 そう言っては大いに酒を飲み、大いにもて、やっと外に出て、
「お前は主演女優が何人できた?」
「三人」
「俺は四人」

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