睡眠薬に酔って散財
私は昨年、ある雑誌に晴美姉さんと二人で毎回ゲストを呼び一年間、対談をした。彼女はその特、京都に引っこしをしていたけれども、この対談には一回も欠席したことはない。私もたのしいから風邪で一度だけ欠席しただけである。
その対談でかのデビ夫人が出席した時、私はこの有名な夫人にスカルノの話をきいたあと、
「今の話には嘘はありませんか」
とたずねると決して自分は嘘はつかないとキッパリ言われる。そこで私はちょっと、悪戯心を起し、今からあなたさまが正直者か否かのテストをしたいとのべ、
「では伺いますが、奥様はお風呂でおナラをされたことがおありでございましょうか」
とうかがうと、夫人はしばし絶句されたが、やがて蚊のなくような声で、
「し……したこと……ございます」
当時、日本のジャーナリズムではこの夫人にきびしく、必ずしもその評判は良いとは言えなかったが、この一言で私は彼女に親愛感を感じたのは事実である。
新宿のフーテン娘と対談した時、彼女は睡眠薬遊び用の睡眠薬を我々も飲まなければイヤだと言いはじめた。私はこの種の薬は平生、使ったことがないのでためらっていると、わが晴美姉さんは大胆にもこの娘がわたした多量の錠剤を口に放りこみ、ビールと一緒にグイと飲みほしてしまった。
私はビックラし、いや、さすが立派であると感心していたが、やがて対談が終り、二次会に喫茶店にみなでいくと、瀬戸内さんがどうもおかしい。酒にでも酔ったように顔が上気し、眼がうるんでいる。機嫌はますますよくなっていたが、そのうち急に立ちあがると、その喫茶店で同時に陳列している婦人ものの服や肩かけをフーテン娘のためにパッパッ買いはじめた。
フーテン娘はすっかり感激し、
「あたし、瀬戸内先生、好きになっちゃったなア」
と大声で叫び、彼女にだきついて悦んでいた。