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ぐうたら交友録69
日期:2020-10-31 20:52  点击:230
 ステキな大根でした
 
 瀬戸内さんにはこのようにアネゴ肌のところがあり、だから私は彼女を晴美姉さんともよぶ次第である。もし彼女にして江戸時代に生れていたならば、大前田英五郎の奥さんにでもなって若い者から「ネエさん、ネエさん」と慕われていたことであろう。
 昨年、私は『季刊芸術』の古山編集長と話をしているうちに急に芝居をやりたくなり、友人、知人を誘ったところ、たちまち四十人以上の男女が集まってきた。だれ一人として芝居をやった経験などないサラリーマンや画家や学生などで、出しものの相談をすれば、
「え? リア王? これはやったことがあります」
「へえ、どこで」
「小学校の学芸会の時です」
 あとは軍隊の軍旗祭で馬方《うまかた》の役をしたというのが最高の役者で、これでシェークスピア原作『ロミオとジュリエット』をやろうと言うのである。
 さすがの心臓の私も恥ずかしく、文壇の友人たちにはできるだけ秘密にしておいたが、早耳の晴美姉さんはいち早くかぎつけ、当日、超満員の客席で田辺日念暮亭とともに、「頑張れエ」「とってもステキー、狐狸庵ちゃん」
 大声をあげているのが舞台上汗だらけの私の耳にも聞えてきた。もっとも自分の役をおえて、化粧を落し休憩時間に客の右往左往しているロビーに出てみると、
「遠藤周作さん江、瀬戸内晴美」
 大きな籠に大きな大根をいっぱい載せたのが、受付ちかくに飾ってあって、客たちの笑いを誘っていた。

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