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薤露行: 一 夢(1)
日期:2021-01-10 23:24  点击:266

 百、二百、(むら)がる騎士は数をつくして北の(かた)なる試合へと急げば、石に()りたるカメロットの(やかた)には、ただ王妃ギニヴィアの長く()(ころも)(すそ)(ひびき)のみ残る。
 薄紅(うすくれない)の一枚をむざとばかりに肩より投げ懸けて、白き二の腕さえ明らさまなるに、(もすそ)のみは(かろ)(さば)(たま)(くつ)をつつみて、なお余りあるを後ろざまに石階の二級に垂れて登る。登り詰めたる(きざはし)の正面には大いなる花を鈍色(にびいろ)の奥に織り込める戸帳(とばり)が、人なきをかこち顔なる様にてそよとも動かぬ。ギニヴィアは幕の前に耳押し付けて一重向うに何事をか()く。聴きおわりたる横顔をまた真向(まむこう)()えして石段の下を鋭どき眼にて(うかが)う。(こま)やかに()を流したる大理石の上は、ここかしこに白き薔薇(ばら)が暗きを()れて(やわら)かき(かお)りを放つ。君見よと(よい)に贈れる花輪のいつ(くだ)けたる名残(なごり)か。しばらくはわが足に(まつ)わる絹の音にさえ心置ける人の、何の思案か、()と立ち直りて、(ほそ)き手の動くと見れば、深き幕の波を描いて、(まば)ゆき光り矢の如く向い側なる(しつ)の中よりギニヴィアの(かしら)(いただ)ける冠を照らす。輝けるは眉間(みけん)(あた)る金剛石ぞ。
「ランスロット」と幕押し分けたるままにていう。天を(はば)かり、地を憚かる中に、身も世も()らぬまで力の(こも)りたる声である。恋に敵なければ、わが戴ける冠を(おそ)れず。
「ギニヴィア!」と(こた)えたるは室の中なる人の声とも思われぬほど優しい。広き額を半ば(うず)めてまた()き返る髪の、黒きを誇るばかり乱れたるに、(ほお)の色は()り合わず蒼白(あおじろ)い。
 女は幕をひく手をつと放して内に()る。裂目(さけめ)を洩れて斜めに大理石の階段を横切りたる日の光は、一度に消えて、薄暗がりの中に戸帳の模様のみ際立(きわだ)ちて見える。左右に開く廻廊には円柱(まるばしら)の影の重なりて落ちかかれども、影なれば音もせず。生きたるは室の中なる二人のみと思わる。
「北の(かた)なる試合にも参り合せず。乱れたるは額にかかる髪のみならじ」と女は心ありげに問う。晴れかかりたる(まゆ)に晴れがたき雲の(わだか)まりて、弱き(わらい)()いて(うれい)(うち)より洩れ(きた)る。


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