日语学习网
薤露行: 一 夢(4)
日期:2021-01-10 23:29  点击:280

「わが冠の肉に()い入るばかり焼けて、頭の上に(きぬ)()る如き音を聞くとき、この黄金の蛇はわが髪を(めぐ)りて動き出す。頭は君の(かた)へ、尾はわが胸のあたりに。波の如くに延びるよと見る()に、君とわれは(なまぐ)さき縄にて、断つべくもあらぬまでに纏わるる。中四尺を隔てて近寄るに力なく、離るるに(すべ)なし。たとい(いま)わしき(きずな)なりとも、この縄の切れて二人離れ離れにおらんよりはとは、その時苦しきわが胸の奥なる心遣(こころや)りなりき。()まるるとも()さるるとも、口縄の朽ち果つるまでかくてあらんと思い定めたるに、あら悲し。薔薇の花の(くれない)なるが、めらめらと燃え(いだ)して、(つな)げる蛇を焼かんとす。しばらくして君とわれの間にあまれる一尋(ひとひろ)余りは、真中(まなか)より青き烟を吐いて金の鱗の色変り行くと思えば、あやしき(にお)いを立ててふすと切れたり。身も魂もこれ限り消えて()せよと念ずる耳元に、何者かからからと笑う声して夢は()めたり。醒めたるあとにもなお耳を襲う声はありて、今聞ける君が笑も、(よべ)の名残かと骨を(ゆる)がす」と落ち付かぬ眼を長き(まつげ)の裏に隠してランスロットの気色(けしき)(うかが)う。七十五度の闘技に、馬の()(すべ)るは無論、(あぶみ)さえはずせる事なき勇士も、この夢を()しとのみは思わず。快からぬ眉根は(おのずか)(せま)りて、結べる口の奥には歯さえ喰い()ばるならん。
「さらば行こう。(おく)()せに北の(かた)へ行こう」と(こまぬ)いたる手を振りほどいて、六尺二寸の(からだ)をゆらりと起す。
「行くか?」とはギニヴィアの半ば疑える言葉である。疑える中には、今更ながら別れの惜まるる心地さえほのめいている。
「行く」といい放って、つかつかと戸口にかかる幕を半ば掲げたが、やがてするりと(くびす)(めぐ)らして、女の前に、白き手を執りて、発熱かと怪しまるるほどのあつき唇を、冷やかに柔らかき甲の上につけた。暁の露しげき百合(ゆり)花弁(はなびら)をひたふるに吸える心地である。ランスロットは(あと)をも見ずして石階を馳け降りる。
 やがて三たび馬の(いなな)()がして中庭の石の上に堅き蹄が鳴るとき、ギニヴィアは高殿(たかどの)を下りて、騎士の出づべき門の真上なる窓に()りて、かの人の(いづ)るを遅しと待つ。黒き馬の鼻面(はなづら)が下に見ゆるとき、身を半ば投げだして、行く人のために白き絹の尺ばかりなるを振る。頭に戴ける金冠の、美しき髪を滑りてか、からりと馬の鼻を(かす)めて砕くるばかりに石の上に落つる。
 (やり)の穂先に冠をかけて、窓近く差し出したる時、ランスロットとギニヴィアの視線がはたと行き合う。「忌まわしき冠よ」と女は受けとりながらいう。「さらば」と男は馬の太腹をける。白き(かぶと)挿毛(さしげ)のさと(なび)くあとに、残るは漠々(ばくばく)たる(ちり)のみ。


分享到:

顶部
11/29 04:46