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虞美人草 一(10)
日期:2021-03-09 23:56  点击:264

「おれの云う事もやっぱり夢のごとしか。アハハハハ時に将門(まさかど)(きえん)を吐いたのはどこいらだろう」
「何でも向う側だ。京都を瞰下(みおろ)したんだから。こっちじゃない。あいつも馬鹿だなあ」
「将門か。うん、気を吐くより、反吐(へど)でも吐く方が哲学者らしいね」
「哲学者がそんなものを吐くものか」
「本当の哲学者になると、頭ばかりになって、ただ考えるだけか、まるで達磨(だるま)だね」
「あの(けぶ)るような島は何だろう」
「あの島か、いやに縹緲(ひょうびょう)としているね。おおかた竹生島(ちくぶしま)だろう」
「本当かい」
「なあに、好い加減さ。雅号なんざ、どうだって、(もの)さえたしかなら構わない主義だ」
「そんなたしかなものが世の中にあるものか、だから雅号が必要なんだ」
「人間万事夢のごとしか。やれやれ」
「ただ死と云う事だけが(まこと)だよ」
「いやだぜ」
「死に突き当らなくっちゃ、人間の浮気(うわき)はなかなかやまないものだ」
「やまなくって好いから、突き当るのは()(ぴら)御免(ごめん)だ」
「御免だって今に来る。来た時にああそうかと思い当るんだね」
「誰が」
小刀細工(こがたなざいく)(すき)な人間がさ」
 山を下りて近江(おうみ)の野に入れば宗近君の世界である。高い、暗い、日のあたらぬ所から、うららかな春の世を、寄り付けぬ遠くに(なが)めているのが甲野さんの世界である。


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