日语学习网
虞美人草 十七 (4)
日期:2021-05-25 23:52  点击:290

 悪洒落の続きを切るために、小野さんは一歩橋の真中(まんなか)へ踏み出した。浅井君の(ひじ)は欄干を離れる。右左地を抜く麦に、日は空から寄って来る。暖かき緑は穂を(かす)めて(あぜ)(のぼ)る。野を(おお)う一面の陽炎(かげろう)逆上(のぼせ)るほどに二人を込めた。
「暑いのう」と浅井君は(あと)から()いて来る。
「暑い」と待ち合わした小野さんは、肩の並んだ時、歩き出す。歩き出しながら真面目(まじめ)な問題に入る。
「さっきの話だが――実は二三日前井上先生の所へ行ったところが、先生から突然例の縁談一条を持ち出されて、ね。……」
「待ってましたじゃ」と受けた浅井君はまた何か云いそうだから、小野さんは談話の速力を増して、急に進行してしまう。――
「先生が随分はげしく来たので、僕もそう世話になった先生の感情を害する訳にも行かないから、熟考するために二三日の余裕を与えて貰って帰ったんだがね」
「そりゃ慎重の……」
「まあしまいまで聞いてくれたまえ。批評はあとで(ゆっ)くり聞くから。――それで僕も、君の知っている(とおり)、先生の世話には大変なったんだから、先生の云う事は何でも聞かなければ義理がわるい……」
「そりゃ悪い」
「悪いが、ほかの事と違って結婚問題は生涯(しょうがい)の幸福に関係する大事件だから、いくら恩のある先生の命令だって、そう、おいそれと服従する訳にはいかない」
「そりゃいかない」
 小野さんは、相手の顔をじろりと見た。相手は存外真面目である。話は進行する。――
「それも僕に判然たる約束をしたとか、あるいは御嬢さんに対して済まん関係でも(こし)らえたと云う大責任があれば、先生から催促されるまでもない。こっちから進んで、どうでも(かた)をつけるつもりだが、実際僕はその点に関しては潔白なんだからね」
「うん潔白だ。君ほど高尚で潔白な人間はない。僕が保証する」
 小野さんはまたじろりと浅井君の顔を見た。浅井君はいっこう気が着かない。話はまた進行する。――
「ところが先生の方では、頭から僕にそれだけの責任があるかのごとく見傚(みな)してしまって、そうして万事をそれから演繹(えんえき)してくるんだろう」
「うん」
「まさか根本に立ち返って、あなたの御考は出立点が間違っていますと誤謬(ごびゅう)を指摘する訳にも行かず……」
「そりゃ、あまり君が人が好過ぎるからじゃ。もう少し世の中に()れんと損だぞ」


分享到:

顶部
11/28 08:22