薔薇
すがれたる薔薇をまきておくるこそふさはしからむ恋の逮夜は
香料をふりそゝぎたるふし床より恋の柩にしくものはなし
にほひよき絹の小枕薔薇色の羽ねぶとんもてきづかれし墓
夜あくれば行路の人となりぬべきわれらぞさはな泣きそ女よ
其夜より娼婦の如くなまめける人となりしをいとふのみかは
わが足に膏そゝがむ人もがなそを黒髪にぬぐふ子もがな(寺院にて三首)
ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり
うなだれて白夜の市をあゆむ時聖金曜の鐘のなる時
ほのかなる麝香の風のわれにふく紅燈集の中の国より
かりそめの涙なれどもよりそひて泣けばぞ恋のごとくかなしき
うす黄なる寝台の幕のものうくもゆらげるまゝに秋は来にけむ
薔薇よさはにほひな出でそあかつきの薄らあかりに泣く女あり
(九・六・一四)
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