客中恋
初夏の都大路の夕あかりふたゝび君とゆくよしもがな
海は今青きをしばたゝき静に夜を待てるならじか
君が家の緋の房長き燈籠も今かほのかに灯しするらむ
都こそかゝる夕はしのばるれ愛宕ほてるも灯をやともすと
黒船のとほき灯にさへ若人は涙落しぬ恋の如くに
幾山河さすらふよりもかなしきは都大路をひとり行くこと
憂しや恋ろまんちつくの少年は日ねもすひとり涙流すも
かなしみは君がしめたる其宵の印度更紗の帯よりや来し
二日月君が小指の爪よりもほのかにさすはあはれなるかな
何をかもさは歎くらむ旅人よ蜜柑畑の棚によりつゝ
ともしびも雨にぬれたる甃石も君送る夜はあはれふかゝり
ときすてし絽の夏帯の水あさぎなまめくまゝに夏や往にけむ
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