砂上遅日
うつゝなきまひるのうみは砂のむた雲母のごとくまばゆくもあるか
八百日ゆく遠の渚は銀泥の水ぬるませて日にかゞやくも
きらゝかにこゝだ身動ぐいさゝ波砂に消なむとするいさゝ波
いさゝ波生れも出でねと高天ゆ光はちゞにふれり光は
光輪は空にきはなしその空の下につどへる蜑少女はも
むらがれる海女らことごと恥なしと空はもだしてかゞやけるかも
うつそみの女人眠るとまかゞよふ巨海は息をひそむらむかも
荘厳の光の下にまどろめる女人の乳こそくろみたりしか
いさゝ波かゞよふきはみはろばろと弘法麦の葉は照りゆらぎ
きらゝ雲むかぶすきはみはろばろと弘法麦の葉は照りゆらぎ
雲の影おつるすなはちふかぶかと弘法麦は青みふすかも
雲の影さかるすなはちはろばろと弘法麦の葉は照りゆらぎ
芥川龍之介歌集:砂上遅日
日期:2021-06-06 23:58 点击:320