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森の中の、ふるいせいようかんのまどから、小さい女の子が、たすけをもとめてなきさけんでいた、そのあくる日のこと。
ミドリちゃんのにいさんの木村敏夫くんは、さっそく、このことをしょうねんたんていだんちょうの小林くんに知らせましたので、小林だんちょうが、木村くんのうちへやってきました。
そして、ふたりで森の中のせいようかんをたんけんすることになりました。まっぴるまですから、こわいことはありません。でも、ふたりとも、たんてい七つどうぐのかいちゅうでんとうや、きぬ糸のなわばしごや、よぶこのふえなどは、ちゃんとよういしていました。
小林だんちょうと木村くんは、うすぐらい森の中をとおって、おばけやしきのせいようかんのまえに来ました。入口のドアをおしてみますと、なんなくひらきました。かぎもかかっていないのです。ふたりは中へはいり、ひろいろうかを、足音をたてないようにしてしのびこんでいきました。
かいちゅうでんとうをてらし、長いあいだかかって、一かいと二かいのぜんぶのへやをしらべましたが、だれもいないことがわかりました。まったくのあきやです。
「どうも、このへやがあやしいよ。なぜだかわからないが、そんな気がするんだ。」
一かいのひろいへやにもどったとき、小林くんが、ひとりごとのようにいいました。すると、ちょうどそのとき……。
どこからともなく、かすかに、かすかに、
「おじさん、かんにんして。あっ、こわいっ……たすけてえ……。」
というひめいがきこえてきました。小さい女の子の声のようです。
ふたりはぞっとして、たちすくんだまま、かおを見あわせました。
「ゆか下からきこえてきたようだね。」
小林くんが、くびをかしげながらいいました。するとまた、
「あれっ、いけないっ。早くたすけて。」と、かすかな声が……。
「どこかに、かくし戸があるにちがいない。どこだろう。」
小林くんは、かいちゅうでんとうをてらして、へやじゅうをさがしまわりました。
そのへやには、大きなだんろがついていて、そのだんろの下がわに、まるいぼっちが、ずっとならんでいます。かざりのちょうこくです。小林くんは、そのぼっちを一つ一つ、ゆびでおしてみました。すると、右から七ばんめのぼっちが、ちょうどベルのおしボタンのように、うごくことがわかったのです。小林くんは、それをぐっとおしてみました。すると……。
ガタンという音といっしょに、「あっ。」というさけび声。びっくりしてふりむくと、いままでそこにいた木村くんのすがたが、きえうせていました。
小林くんはびっくりして、そこへかけつけました。すると、ゆかいたに、四かくいあながぽっかりとあいていることがわかりました。ちかしつへのおとしあなです。小林くんが、だんろのぼっちをおしたので、それがひらいたのです。
「木村くん、だいじょうぶか。」
あなの中へ、かいちゅうでんとうをむけてよんでみました。
「う、う、う……だ、だいじょうぶだっ。」
木村くんがくるしそうにこたえました。見ると、あなの下に、すべりだいのようないたが、ずっとつづいています。小林くんは、思いきってそこへとびおりました。
すうっ……とすべりました。そして、どしんと、ちかしつのかたいゆかに、しりもちをつきました。
やっとのことでおき上がって、かいちゅうでんとうをてらしてみますと、そこは十じょうほどの、ひろいちかしつでした。しかし、ひめいをあげた女の子のすがたは、どこにも見えません。むこうのかべに、まっくらなほらあながあいています。そのむこうに、べつなちかしつがあるのでしょうか。
「あっ、きみ。あれ、なんだろう。」
木村くんが、おびえた声で、そのほらあなをゆびさしました。
ふたりのかいちゅうでんとうが、ぱっと、そこをてらしました。
まっくらなほらあなのおくで、ぎらぎら光った、二つのまるいものが、ちゅうにういているのです。そしてそれが、だんだんこちらへ近づいてくるではありませんか。
かいぶつの目です。なにかしらおそろしいものが、こちらへやってくるのです。まるでヤドカリが、かいがらの中からかおを出すように、それが、にゅっとくびを出しました。
「あっ。」
ふたりは、思わず声をたてて、おたがいのからだをだきあいました。
そのからだは、まっかでした。まっかな長い、大きなつの。そのねもとに、ぶきみなとんがった口。二つのぎらぎら光る目。おれまがった六本の長い足……。それは、にんげんほどの大きさの、まっかなカブトムシだったのです。
ああ、ふたりはどうなるのでしょう。
さっき、ひめいをあげたかわいそうな女の子は、いったいどうしたのでしょうか。