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おばけやしきのちかしつにしのびこんだ小林・木村くんのまえに、黒いマントをきた、せいようあくまのようなおそろしい人があらわれました。
「わしは、いつか、きみたちしょうねんたんていだんと、ちえくらべをしたまほうはかせだよ。じつは、もう一ど、きみたちのちえをためすために、ここへおびきよせたのだ。
このまえは『おうごんのとら』だったが、こんどは、この赤いカブトムシだ。これはルビーでできている。二つの目は、ダイヤモンドだ。わしのだいじなたからものだよ。これをきみたちにわたすから、このまえのようにちえをしぼって、うまくかくしてごらん。わしは、五日のあいだにそれをさがしだして、ぬすんでみせるよ。ぬすまれたら、このちえくらべは、きみたちのまけなのだ。」
それをきくと、「ああ、あのときのまほうはかせだったのか。」
と、やっとあんしんしましたが、でも、まだわからないことがあります。
「きのう、このせいようかんの外がわを、はしごもないのに、するするとのぼっていったのはおじさんだったの。それから、まどからのぞいていた女の子は、どうしたのです。おじさんがいじめていたのでしょう。」
「うふふふ……。あれは、きみたちを、ここへおびきよせる手なのだよ。木村くんのいもうとのミドリちゃんたちが見ているのを知っていて、ふしぎなことをやってみせたのだ。あのときは、このうちのやねから、ほそい、じょうぶな糸のなわばしごがさげてあって、それをつたってのぼったのさ。夕がただから、とおくからは、その糸が見えなかったのだよ。
あのときの女の子は、にんぎょうだよ。ほら、これをごらん。」
まほうはかせは、マントの下にかくしていた、大きなにんぎょうを出してみせました。
「でも、きのうの女の子は、かなしそうなさけび声をたてていたというじゃありませんか。」
小林くんがききかえすと、はかせはにやにやわらって、よこをむきました。
「きゃあ。たすけてえ。」
女の子のおそろしいさけび声がきこえました。ふたりはびっくりして、にんぎょうのかおを見ましたが、べつに、口がうごいているわけでもありません。「ははは……。ふくわじゅつだよ。わしが、口をうごかさないで、女の子の声をまねたのだ。きのうのさけび声は、これだったのだよ。」
このたねあかしをきいて、ふたりは、すっかりあんしんしました。そして、まほうはかせからルビーのカブトムシをうけとると、おばけやしきを出て、小林くんの[#「小林くんの」はママ]うちにかえり、おとうさんやおかあさんやミドリちゃんに、そのことを話しました。それから、ふたりで、明智たんていじむしょへいそぎました。そして、明智先生にも、まほうはかせのことをほうこくするのでした。
それからしばらくすると、小林くんがでんわでよびよせた、十人のしょうねんたんていだんいんが、明智たんていじむしょへあつまってきましたが、その中にひとりだけ、女の子がまじっていました。中学一年の宮田ユウ子ちゃんという、ついこのごろなかま入りをした、たったひとりのしょうじょだんいんです。年のわりにからだが大きく、いかにもかわいい女の子でした。
「あたし、いいこと思いついたわ。そのカブトムシ、あたしのうちへかくすといいわ。」
みんなでそうだんをしているうちに、ユウ子ちゃんが、そんなことをいいだしました。そして、小林だんちょうの耳に口をよせて、なにか、ひそひそとささやくのでした。
つぎつぎとささやきかわして、ユウ子ちゃんの考えがわかると、みんなは手をたたいて、「それがいい、それがいい。」とさんせいしました。
ユウ子ちゃんは、ルビーのカブトムシをポケットに入れ、その上を手でしっかりおさえて、しょうねんたちにおくられてうちへかえりました。ユウ子ちゃんのうちは、せっこうのおきものを作るのがしょうばいで、うらに、小さなこうばがあるのです。
ユウ子ちゃんは、そのこうばの中へはいっていきました。こうばには、しょうねんのくびや、ビーナス(めがみ)や、花かごをさげた女の子などのせっこうのおきものが、たくさんならんでいます。
すっかりできあがったものもあり、まだできあがらないで、これからつぎあわせるのもあります。ユウ子ちゃんは、このせっこうの中へ、カブトムシをかくそうというのでしょうか。
そんなことで、うまくまほうはかせの目をくらますことができるのでしょうか。なにか、もっとふかい考えがあるのかもしれません。
ユウ子ちゃんが、せっこうのおきもののまん中にしゃがんでいますと、ガラスまどの外に、おそろしいかおがあらわれました。かおじゅうひげにうずまったきたない男が、そっと、中をのぞいているのです。
このひげの男は、いったいなにものなのでしょう。そして、しょうねんたちが手をたたいてよろこんだユウ子ちゃんのちえというのは、どんなことだったのでしょう。
やがて、じつにきみょうなことがおこるのです。この、かおじゅうひげにうずまった、えたいの知れない男が、とほうもないことをやりはじめるのです。