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しょうねんたんていだんのたったひとりのしょうじょだんいん、宮田ユウ子ちゃんは、ルビーでできた赤いカブトムシをもって、じぶんのうちのせっこうざいくのこうばにはいって、なにかやっていました。すると、そのとき、まどの外から、かおじゅうひげでうずまった、きたない男が、そっとのぞいていたのです。
そのあくる日の夕がた、ユウ子ちゃんのおうちのある渋谷区で、つぎつぎとふしぎなことがおこりました。ある町のがくぶちやさんへもじゃもじゃあたまの、きたない男がはいってきて、ショーウインドーにかざってあった、五、六さいのかわいいしょうねんの、くびだけのせっこうぞうをかっていきました。
男は、みせを出ると、さびしいよこちょうに、はいり、あたりを見まわしてから、紙づつみをといて、せっこうのしょうねんのくびを、いきなりじめんにたたきつけ、こなごなにわってしまいました。
せっかくかったせっこうぞうを、なぜわったのでしょう。この男は、気でもちがってしまったのでしょうか。
それから、三十分もすると、その男は、べつの町のびじゅつしょうのみせにあらわれました。そして、そこでも、さっきとおなじしょうねんのくびのせっこうぞうをかい、また、さびしいよこちょうへ来ると、こなみじんにわってしまいました。また、三十分ほどたったころ、こんどは、おなじ渋谷区のあるおやしきへ、あの男がしのびこんでいきました。
その家のおうせつまにも、おなじせっこうのしょうねんのくびがありました。男は、まどからはいりこんでそのくびをぬすみとると、近くのじんじゃの森で、またこなごなにこわしてしまいました。
「だめだ、はいっていない。あのとき、まだつぎあわされていないせっこうは、この三つだけだったのに……。」
男は、とほうにくれたように、たちつくしていました。そのとき、ふいにうしろから、女の子のわらい声がきこえてきました。
男が、びっくりしてふりむくと、大きな木のうしろから出てきたのは、ユウ子ちゃんです。
「おじさん、いっぱいくったわね。このちえくらべは、しょうねんたんていだんのかちよ。
おじさんは、あたしが、せっこうぞうの中へ、赤いカブトムシをかくすのをまどから見ていたのでしょう。ところが、あれは、かくすように見せかけただけなのよ。ほんとうは、もっとべつのところにかくしてあるのよ。」
ユウ子ちゃんは、そういって、さもおもしろそうにわらうのでした。
「そうか、うまくやりやがったな。おれは、あれをぬすもうと思ったが、いつもこうばに人がいたので、ぬすみ出すことができなかった。
しかたがないから、あの三つの子どものくびがはいたつされるのをまって、そのさきを一けんずつまわってこわしてみたが、なんにも出てこなかった。まんまといっぱいくわされたな。わっは、は、は……。」
男は、べつにおこるようすもなく、大わらいをして、それから、ふっとまじめなかおになりました。
「ところがね、おじょうさん。まほうはかせは、もっと上手なんだぜ。おれは、はかせのでしで、きみを、ほうぼうひっぱりまわすやくだったのさ。きみが、おれのあとをつけているまに、まほうはかせが、きみのかくした赤いカブトムシを、ちゃんとぬすみ出してしまったのだよ。は、は、は、は……。」
それをきくと、ユウ子ちゃんは、はっとして、まっさおになってしまいました。
そして、ものもいわず、いきなりどこかへかけだしていくのでした。男は、あとを見おくって、にやりとわらいました。
ユウ子ちゃんは、バスにのっておうちへかえると、小さなシャベルをもって、うら口の外のはらっぱへいそぎました。
ひざまでかくれる草をかきわけて、はらっぱのまん中まで行くと、目じるしの石をとりのけて、その下をシャベルでほりかえし、かくしておいたブリキカンをとり出しました。
「まあ、よかった。あの人、うそをついたのだわ。」
かんの中には、赤いカブトムシが、ちゃんとはいっていたではありませんか。
「うふ、ふ、ふ、ふ。こんどは、きみのほうでいっぱいくったね。」
とつぜんうしろから声がして、さっきの男がたっていました。
「まほうはかせが、ぬすみ出したというのはうそさ。まほうはかせは、このわしだよ。あんなことをいって、きみを、ほんとのかくしばしょに来させたのさ。さあ、そのカブトムシを出しなさい。」
男は、にゅっと手をつき出しました。