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少年たんていだんの小林だんちょうと、だんいんの木村くんと、ユウ子ちゃんと、井上くんと、ノロちゃんの五人が、まほうはかせのあんごうをといて、世田谷区のはずれのさびしい原っぱにあるほらあなへはいっていくと、コンクリートのまるいへやにとじこめられ、上からおもい鉄のふたが、じりじりとさがってきました。鉄のふたにはすきまがないから、そのままさがってきたらたいへんです。
みんな、おしつぶされてしんでしまうにきまっているのです。おくびょうもののノロちゃんや、女の子のユウ子ちゃんは、わあわあとなきだしてしまいました。
しかし、だんちょうの小林くんは、しっかりしていました。いそがしくあたまをはたらかせて、どうしたらみんながたすかるかということを、いっしょうけんめいに考えました。
「まほうはかせは、人ごろしなんかするはずがない。こんなおそろしい目にあわせて、ぼくたちのゆうきとちえをためしているんだ。」
それなら、ちえをはたらかせたら、どこかににげ道があるのかもしれません。
そこで小林くんは、かいちゅうでんとうをもったまま、まるいへやのまわりを、ぐるっとはいまわり、コンクリートのかべをしらべてみました。
すると、コンクリートのかべに、六十センチ四方ほどの、四かくな切れ目がついているのを見つけました。
「これが、ひみつのかくし戸かもしれないぞっ。」
力いっぱいおしてみましたが、びくともしません。
「どこかに、これをひらくしかけがあるにちがいない。」
小林くんはすばやく、そのへんを見まわしました。
四かくな切れ目から、すこしはなれたかべの上の方に、コンクリートが小さくふくらんだところがあります。よくしらべてみると、そのぼっちは、コンクリート色にぬった金物であることがわかりました。
「ああ、そうだ。鉄のふたが下までおりたら、ぼくたちがしんでしまうから、下までおりないうちに、にげ出せるしかけになっているのだ。」
「鉄のふたが、このぼっちのところをとおると、ぼっちがおされる。そうすると、ひみつの戸が外へひらくようになっているのだ。」
小林くんは、とっさに、そこへ気がつきました。
「それなら、手でおしたって、ひらくかもしれないぞ。」
そこで、ぼっちにおやゆびをあて、その上に、もう一方の手をかさねて、力いっぱいおしてみました。
ぼっちは、なかなか動きません。たいへんな力がいるのです。小林くんは、からだじゅう、あせびっしょりになりました。でも、がまんをして、うんうんおしつづけていますと、カタンという音がして、四かくな切れ目が、すうっとむこうへひらきました。小林くんのちえとゆうきが、せいこうしたのです。
そこは、にんげんひとりがやっとはってとおれるほどのまっくらなあなでした。小林くんは、みんなをよんで、そのあなへはいこみました。きみがわるいけれども、じっとしていたら、鉄のふたにおしつぶされてしまうだけですから、このあなへにげるほかはないのです。
そのまっくらできゅうくつなあなは、十メートルもつづいていました。
やがて、あたりがきゅうにひろくなりました。外へ出たのでしょうか。いや、そうではありません。まだまっくらです。やはり、地のそこの一室なのです。
たち上がって、かいちゅうでんとうでてらしてみますと、それは、二十じょうもあるような、コンクリートのへやでした。みんなが、そのへやにはいったとき、どこからか、ぎょっとするような声がひびいてきました。
「わははは……。かんしん、かんしん。とうとう、あぶないところをぬけ出したね。だが、まだこれでおしまいじゃないよ。わしの手紙には、『おそろしい番人に注意せよ。』と書いてあった。だい一は大トラ、だい二は鉄のふた、さて、だい三の番人はなんだろうね。おしまいほどおそろしいやつがひかえているからね。ようじんするがいいよ。」
まほうはかせの声です。どこから聞えてくるのかわかりません。きっとてんじょうのすみに、ラウド=スピーカーでもしかけてあるのでしょう。
五人は一かたまりになって、おたがいのからだをだきあってじっとしていました。ノロちゃんのからだが、がたがたふるえているのがよくわかります。
「あれっ、なんだろう。なにか動いているよ。」
木村くんが、むこうのゆかをゆびさしてさけびました。かいちゅうでんとうの光が、さっとその方をてらします。
するとそこに、なんだかきみのわるいことがおこっていました。
地のそこから、みょうなものがむくむくとあらわれてきたのです。
まるいあたまのようなものが出てきました。
それが、見る見る大きくなります。あなもなにもないコンクリートのゆかから、むくむくと上がってくるのです。子どもくらいの大きさになりました。おとなくらいになりました。おとなのばいになりました。おとなの三ばいになりました。大きなあたまの、まっさおなからだの、のっぺらぼうなかいぶつです。それが、きりもなく大きくなっていくのです。