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红房子(1)
日期:2021-08-07 23:54  点击:551

赤い部屋

江戸川乱歩


 異常な興奮を求めて集った、七人のしかつめらしい男が(私もその中の一人だった)態々(わざわざ)其為(そのため)しつらえた「赤い部屋」の、緋色(ひいろ)天鵞絨(びろうど)で張った深い肘掛椅子に(もた)れ込んで、今晩の話手が何事か怪異な物語を話し出すのを、今か今かと待構(まちかま)えていた。
 七人の真中には、これも緋色の天鵞絨で(おお)われた一つの大きな円卓子(まるテーブル)の上に、古風な彫刻のある燭台(しょくだい)にさされた、三挺(さんちょう)の太い蝋燭(ろうそく)がユラユラと(かす)かに揺れながら燃えていた。
 部屋の四周には、窓や入口のドアさえ残さないで、天井から床まで、真紅(まっか)な重々しい垂絹(たれぎぬ)が豊かな(ひだ)を作って懸けられていた。ロマンチックな蝋燭の光が、その静脈から流れ出したばかりの血の様にも、ドス黒い色をした垂絹の表に、我々七人の異様に大きな影法師(かげぼうし)を投げていた。そして、その影法師は、蝋燭の焔につれて、幾つかの巨大な昆虫でもあるかの様に、垂絹の襞の曲線の上を、伸びたり縮んだりしながら這い歩いていた。
 いつもながらその部屋は、私を、丁度とほうもなく大きな生物の心臓の中に坐ってでもいる様な気持にした。私にはその心臓が、大きさに相応したのろさを(もっ)て、ドキンドキンと脈うつ音さえ感じられる様に思えた。
 誰も物を云わなかった。私は蝋燭をすかして、向側に腰掛けた人達の赤黒く見える影の多い顔を、何ということなしに見つめていた。それらの顔は、不思議にも、お能の面の様に無表情に微動さえしないかと思われた。
 やがて、今晩の話手と定められた新入会員のT氏は、腰掛けたままで、じっと蝋燭の火を見つめながら、次の様に話し始めた。私は、陰影の加減で骸骨の様に見える彼の顎が、物を云う度にガクガクと物淋しく合わさる様子を、奇怪なからくり仕掛けの生人形でも見る様な気持で眺めていた。


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