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怪指纹:锡匣子
日期:2021-08-15 23:11  点击:253

(すず)小函(こばこ)


 お話は一転して東京に移る。
 あの無残な川手氏の生体埋葬が行われた翌日の夜、隅田川にボート遊びをしていた若い男女が、世にも不思議な拾いものをした。
 男は丸の内のある会社に勤めている平凡な下級社員、女は浅草のあるカフェーの女給であったが、丁度土曜日のこと、まだ季節には早いけれど、川風が寒いという程ではなく、闇の中で、たった二人で話をするのには、これに限るという思いつきから、もう店開きをした貸ボートを借りて、人目離れた川の真中を漕ぎ廻っていた。
 やがて十時であった。
 季節でもないこの夜更けに、ボート遊びをしているような物好きもなく、暗い川面(かわも)には、彼らの(ほか)に貸ボートの赤い行燈(あんどん)は、一つも見当らなかった。
 彼らはその淋しさを、却ってよい事にして、楽しい語らいの種も尽きず、ゆっくりと(かい)(あやつ)りながら、今吾妻橋(あづまばし)の下を抜けようとした時であった。夢中に話し込んでいる二人の間へ、ヒューッと空から何かしら落ちて来て、女の膝をかすめ、ボートの底に転がった。
「アラッ!」
 女は思わず声を立てて、橋を見上げた。空から物が降る筈はない、橋の上を通りかかった人が、投げ落したものに違いないのだ。
 男は櫂を一掻きして、ボートを橋の下から出し、それと覚しい辺りを見上げたが、その辺に川を覗いているような人影もなかった。怒鳴りつけようにも、相手はもう立去ってしまっていたのだ。
「痛い? ひどく痛むかい」
 女が渋面(じゅうめん)を作りながら膝をさすっているので、男は心配そうに訊ねた。
「それ程でもないわ。でも、ひどいことをするわね。あたし、まだ胸がドキドキしている。誰かがいたずらしたんじゃないかしら」
「まさか。それに、あの時、ボートは橋の下から半分も出ていなかったから、きっと、こんな所に舟なんかないと思って投げたんだよ。川の中へ捨てたつもりで行ってしまったんだよ」
「そうかしら、でも危いわねえ。軽いものなら構わないけど、これ随分重そうなものよ。アラ、ごらんなさい。何だかいやに御丁寧に縛ってあるようよ」
 男は櫂を離して、ボートの底に転がっている一物を拾い上げ、行燈の火にかざして見た。
 それは石鹸箱程の大きさのもので、新聞紙で丁寧に包み、上から十文字に細い紐で括ってあった。
「あけて見ようか」
 男は女の顔を眺めて、冗談らしく云った。
「汚いわ、捨てておしまいなさい」
 女が顔をしかめるのを、意地悪くニヤニヤして、
「だが、若しこの中に貴重なものが入っていたら、勿体(もったい)ないからね。何だかいやに重いぜ。金属の箱らしいぜ。宝石入れじゃないかな。誰かが盗んだけれど、持っているのが恐ろしくなって、川の中へ捨てたというようなことかも知れないぜ。よくある奴だ」
 男は多分に猟奇の趣味を持っていた。
「慾ばっている! そんなお話みたいなことがあるもんですか」
「だが、つまらないものを、こんなに丁寧に包んだり縛ったりする奴はないぜ。兎も角開けて見よう。まさか爆弾じゃあるまい。君、この行燈を持っていてくれよ」
 男の酔狂(すいきょう)を笑いながら、しかし、女も満更(まんざ)ら好奇心がない訳でなく、蝋燭のついた行燈を取って、男の手の上にさしつけてやるのであった。
 男はその新聞包をボートの真中の腰かけ板の上にのせ、その上にかがみ込んで、注意深く紐を解き始めた。
「いやに沢山結び玉を(こさ)えやがったな」
 小言を云いながら、でも辛抱強く、丹念に結び玉を解いて、やっと紐をはずすと、幾重にも重ねた新聞包を、ビクビクしながら開いて行った。
「ホーラごらん。やっぱり捨てたもんじゃないぜ。錫の小函だ。重い筈だよ。ウン、分った。この函は重しに使ったんだ。中のものが浮いたり流れたりしないように、こんな重い函の中へ入れて捨てたんだ。して見ると、この中には、ひょっとしたら、ラヴレターかなんか入っているのかも知れないぜ。こりゃ面白くなって来た」
「およしなさいよ。何だか気味が悪いわ。いやなものが入っているんじゃない? こんなにまでして捨てるくらいだから、よっぽど人に見られては困るものに違いないわ」
「だから、面白いというんだよ。マア、見ててごらん」
 男はまるで爆弾でもいじるような(ふう)におどけながら、勿体らしく小函の蓋に手をかけ、ソロソロと開いて行った。
「ハンカチらしいね」
 小函の中にはハンカチを丸めたようなものが入っていた。男は拇指(おやゆび)と人差指で、ソッとそれの端をつまみ上げ、函の外へ取出した。
「ア、いけない。捨てておしまいなさい。血だわ。血がついているわ」
 如何にもそのハンカチには、ドス黒い血のようなものがベットリと染み込んでいた。
 それを見ると、女が顔色を変えたのに引かえ、男の好奇心は一入(ひとしお)激しくなりまさった。
 彼はもう無言であった。何かしら重大な事件の中にまき込まれたという興奮のために、目の色が変っていた。彼は咄嗟の間に、嘗て愛読した探偵小説の中の、それに似た場面をあれこれと思い浮べていた。
 ほの暗い行燈の下で、血染のハンカチが注意深く開かれて行った。
「何だか包んである」
 男の声は、囁くように低かった。顔をくっつけ合った二人には、お互の鼻息が、異様に耳についた。
「怖いわ。よしましょう。捨てておしまいなさいな。でなければお巡りさんに渡した方がいいわ」
 だが、男はもうハンカチを拡げてしまっていた。真赤に染まったハンカチの上に、何かしら細長いものが、(かぎ)なりに曲って横わっていた。
「指だよ」
 男が鼻息の間から喉のつまった声で囁いた。
「マア!」
 女はもうお喋りをする元気もなく、行燈をそこに置いたまま、顔をそむけてしまった。
「女の指だよ。……根元から切取ってある」
 男が()かれた人のように、不気味な囁きをつづけた。
「指を切取って、川の中へ捨てなければならないなんて、これは一体どうした訳だろう。……犯罪だ! 君、これは犯罪だよ。……悪くすると殺人事件だよ」

    故事转到东京。
 
    就在川手被残忍地活埋的第二天晚上,在隅田川划着船游玩的一对青年男女拾到了一样非常奇怪的东西。
 
    男的是在丸内一家公司工作的普通小职员,女的是浅草一家咖啡馆的女招待。那天刚好是周末,虽然还不到划船的季节,但河面上的风已经不怎么冷了。两人心想,只是两个人说说话,这是再好不过的了,于是借了一条已经开张的出租小船,在避开众目的河中心来回划着。
 
    不久到了十点。
 
    还不到划船的季节,也没有那种在这深夜划着小船游玩的好奇的人,听以漆黑的河面上除了他们以外看不到一盏出租小船的红色纸灯笼。
 
    他们反而利用这空寂,不断地搬出着快乐的话题。就在他们慢慢地操着桨,刚要从吾妻桥下穿过去时,有样东西从空中落向只顾着谈话的两人中间,擦过女的大腿滚到了船底上。
 
    “哎哟!”
 
    女的情不自禁地叫出声来,抬头看了看桥上。不会是从天空掉下来的东西,一定是刚好从桥上通过的人扔下来的。
 
    男的划了一桨,使小船出了桥下,他抬头看了一下好像是从那儿掉下来的地方,但那一带连那样瞧着河面的人影都没有。就是想骂,对方也早已离去了。
 
    “痛吗?很痛吗?”
 
    因为女的露出一副不高兴的神气抚摸着大腿,所以男的不安地问道。
 
    “倒不怎么痛,可真是的,我的心还在砰砰直跳。有人干恶作剧吧?”
 
    “哪有的事。况且当时小船还没有从桥下出来一半,一定想这种时候哪会有船,所以扔了下来。自以为扔到河里了响。”
 
    “是吗?不过真危险。轻东西倒没有关系,可这东西看上去好重呀。哎哟,你瞧,好像捆得好好的呢!”
 
    男的放下划桨拾起滚在船底上的东西,迎着座灯的火看了一下。
 
    那是个肥皂盒般大小的东西,用报纸包得好好的,上面用细绳捆成了十字形。
 
    “打开看看吧。”
 
    男的看了一下女的脸,开玩笑似地说。
 
    “太脏了,丢了它!”
 
    女的皱着眉头说道,男的却笑着说:
 
    “可是,要是这里面装着贵重的东西不可惜了吗?好像重得很哩!像是个金属盒子哩,会不会是宝石富呢?也许谁偷了又害怕拿着,所以丢到了河里吧。常常有这种家伙的。”
 
    男的很有猎奇的兴趣。
 
    “你真贪心!哪会有这种故事一样的事呢?”
 
    “可是,不会有人这样好端端地包着没有用的东西的。不管怎样,打开看看吧,总不会是炸弹吧。你拿着这座灯。”
 
    虽然笑男的想入非非,可女的也不是完全没有好奇心,她提着点着蜡烛的灯笼,伸到男的手上面。
 
    男的把那报纸包放在小船中间的凳板上,蹲在前面开始小心谨慎地解绳子。
 
    “打了好多好多结呀。”
 
    他一面发着牢骚,一面仍然耐心地、仔细地解着结,好不容易取掉了绳子,随后便提心吊胆地逐渐打开包了好几层的报纸包。
 
    “你瞧,果然不是丢掉的东西。是个锈匣子,怪不得这么重!哦,懂了,这匣子是用来做镇石的,是为了不让里面的东西漂流掉才放进这么重的匣子里扔掉的。这么说来,说不定这里面装着请书什么的哩。这可有意思学!”
 
 
 
 
    “别打开了,叫人挺害怕的,会不会是装着讨厌的东西呢?这么郑重其事地丢掉的,所以一定是不能叫人看到的东西呀!”
 
    “所以我说有意思嘛。啊,你瞧!”
 
    男的一面像是摆弄炸弹似地做着滑稽动作,一面装模作样地把手放到小区的盖子上,慢慢地打开着。
 
    “像是块手帕吧?”
 
    小区里面装着像是团着的手帕一样的东西。男的用大拇指和食指轻轻地抓起它的边,拿到了匣子外面。
 
    “啊,糟糕!快丢掉!是血呀,沾着血呢!”
 
    那手帕上果然渗满了紫黑色的东西。
 
    一见到那东西,女的立即变了脸色,可男的益发感到好奇了。
 
    他不再吱声了,兴奋得神色都变了,仿佛自己卷进一件重大的案件中。他猛然间回想起过去爱读的侦探小说中与此相似的场面。
 
    在暗淡的灯笼下沾满鲜血的手帕被小心翼翼地逐渐打开着。
 
    “好像包着什么东西。”
 
    男的低声细语地说道。两个脸挨着脸,双方鼻子里的呼气听来都有点怪了。
 
    “太可怕了。别打开,丢了它吧!要不就交给警察吧。”
 
    但男的已经摊开了手帕。在染红了的手帕上面横着一件细长的钩状物。
 
    “是手指头呀!”
 
    男的用嗓子硬塞了一般的声音低声说道。
 
    “哎呀!”
 
    女的已经没有胆量说话,她把灯笼放在那儿别过脸去了。
 
    “是女人的手指呀!……从手指头根切了下来。”男的像着了迷似地继续低声地说着令人毛骨悚然的话,“是把手指头切下来丢到河里,这到底是为什么呢?……是犯罪!喂,这是犯罪呀!弄得不好还是起凶杀案件呢!”

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