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海底魔术师-沉船里的怪物(2)
日期:2021-08-29 23:51  点击:246

 しかし、この沈没船には、人間の死体がのこっているはずはないのです。乗組員はぜんぶ、すくいだされていたからです。しかも、いまチラッとのぞいたのは、死体の顔ではありません。いきた人間、いや、人間ににた、へんなものでした。
 潜水夫たちは、海の底で、いろいろなおそろしいものに出あっていますから、ちょっとぐらいのことには、おどろかないのですが、いまチラッとのぞいたやつは、なんだか、ひどくうすきみのわるいものでした。さすがの潜水夫たちも、こわくなってきました。
 ふたりは、そこに立ちすくんで、しばらく顔を見あわせていましたが、ひとりが水中電灯の光の前で右手をヒラヒラと動かしました。ことばのかわりの手まねなのです。潜水かぶとの中には、電話そうちがあって、作業船の上の人たちと話ができますけれど、潜水夫どうしが電話で話しあうことはできません。おたがいの手に電線をしかけて、手をにぎりあえば電話が通じるしかけもあるのですが、ふつうは、そういうしかけをしていないのです。
 日本の潜水夫は、いまのような、すすんだ潜水服ができないむかしから、海の底にもぐることがじょうずでしたから、水の中で手まねで話すことにも、なれているのです。ちょうどおしが手まねで話をするように、潜水夫も手まねだけで、なんでも話すことができるのです。
「きみはこわいのか。」
 ひとりの潜水夫の手まねは、そういっていました。そんなふうにきかれると、いじにも「こわい。」などとはいえません。
「こわいもんか。中へはいってみよう。」
 もうひとりの潜水夫が手まねでこたえました。
「きみ、さきにはいれ。」
「いや、きみの方が、穴に近いじゃないか。きみ、さきにはいれ。」
 ふたりが、さきをゆずりあっているのは、じつはこわいからです。しかし、日本の海難救助員が勇敢なことは世界じゅうに知られています。その日本潜水夫の名誉にかけてもこわいなどとはいえません。あやしいものを見て、にげだしたことがわかれば、なかまの、もの笑いです。
「それじゃ、手をつないで、いっしょにはいろう。」
「うん、それがいい。」
 ふたりは、手をつないで、船体のやぶれ穴の中へ、はいってみることになりました。
 穴の中は、荷物を入れる大きな部屋のようでしたが、水中電灯の光は、それほどつよくないので、部屋の中のむこうの方はまっ暗で、なにがかくれているかわかりません。
 ふたりは、穴のふちをまたいで、すべるように、ふわっと船の中にはいっていきました。そして、ひどくかたむいている船倉の床を、だんだん、おくの方へ歩いていくのでした。
 箱づめや、コモづつみの荷物が、ゴロゴロしています。かるい荷物は浮きあがって、部屋のてんじょうにくっついています。また、フワフワと、目の前にただよっているものがあります。
 そのあいだを、大きいのや小さいのや、いろいろのさかなが泳ぎまわっているのです。それが水中電灯のそばに近よると、うろこが、赤みがかった金色や、青みがかった銀色に、キラキラと、うつくしく光るのです。
 このふたりは、ながいあいだ潜水夫をやっている人たちでしたから、こういう船倉の中にただよっている人間の死がいも、かずしれず見ていました。水ぶくれになった死体、もう骨ばかりになった死体など、きみのわるいものには、なれっこになっていたのです。ですから、さっきチラッとのぞいたやつが、人間の死体でないことは、よくわかっていました。むろんさかなでもありません。なんだか、えたいのしれないものでした。いまにも、むこうの荷物のかげから、さっきのやつが、ヌーッとあらわれるのではないかとおもうと、ものなれた勇敢な潜水夫たちも、気味がわるくて、背中が、ぞくぞくしてきました。
 しかし、その船倉の中には、べつにあやしいものも見えません。一方の壁に船倉からつぎの部屋へ行くドアが、ひらいたままになっています。そのむこうは、どうやら機関室らしいのです。


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