ところが、そうではなかったのです。
宿題のむずかしいところにさしかかったので、賢吉君はそれを考えるために、えんぴつをおいて目の前の空間を見つめていました。すると、目の前になんだか、もやもやと動いているものがあるのです。おやっとおもって、目をさだめてそこを見ました。
机のむこうに、ガラス窓があります。カーテンがひいてないので、そこからまっ暗な庭が見えています。そのまっ暗な中に、なにか黒いものがもやもやと、動いているのです。
やみの中に黒いものですから、よく見わけられませんが、なにかいることはたしかでした。人間かと思いましたが、人間ならば顔は白く見えるはずです。どうも人間ではなさそうです。人間ではなくて人間ほどの大きさのものです。
ゾーッと、背中がさむくなりました。
その黒いものは、だんだんこちらへ近づいて来ます。もう窓ガラスのすぐそばまで来ました。ぼんやりとかたちが見えます。それはいままで一度も見たことのないような、うすきみのわるい、へんてこなものでした。
ギョッとして、心臓がのどのところまで、とびあがるような気がしました。
そのものが窓ガラスにぴったり顔をくっつけて、賢吉君をにらみつけたからです。
ひたいの下がゴリラのようにくぼんでいて、そのおくから、リンのように青白く光る、ふたつの目がのぞいていました。口は耳までさけて、そのくちびるのあいだから、二本の牙が、ニューッと、のびていました。それは人間の顔ではありません。動物の顔でもありません。なんだかえたいのしれないものです。顔ぜんたいが、まるで鉄のように黒びかりに光っているのです。
賢吉君はにげだそうとしました。しかし、リンのように光る目でにらみつけられると、ちょうど、ヘビににらまれたカエルのように、もう身動きができなくなって、いすにかけたまま、じっとしているほかはないのでした。
それから、もっとおそろしいことがおこりました。ガラス窓が、ジリジリと、下から上へひらきはじめたのです。怪物が外から、おしあげ窓をひらいているのです。
それでも、賢吉君は、まだにげる力がありません。まるで、いすにしばりつけられたように、まったくからだが動かないのです。そして、目は怪物の方にひきつけられ、見まいとしても、その方からそらすことができないのです。
窓はすこしずつ、すこしずつ、上の方へひらいていきました。そして四十センチほどひらいたとき、怪物の顔がニューッと窓の中へはいって来ました。ふたつの目は青いほのおのようにもえています。頭の上には、気味のわるいトサカのようなものが、するどくつっ立っています。それから口が……。
その耳までさけた口が、キューッと三日月形にひらいて、
「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ……。」
と笑ったのです。鉄と鉄がすれるような、おそろしい音をたてて、笑ったのです。
海底魔术师-窗户上的脸(2)
日期:2021-08-29 23:51 点击:326
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