海底の大闘争
「おやっ、へんなものがいるぞ、いったい、あれはなんだろう。」
技師はギョッとして、潜航艇の背中を見つめました。前についている二つの目だまの光が、あまり強いので、背中の方は、よく見えなかったのですが、そこに、おそろしいものが、うずくまっていたのです。
鉄の人魚です。鉄の顔、鉄のトサカ、耳までさけた口から、二本の牙がニューッとつき出していて、からだはワニのような怪物です。そいつが、魚形潜航艇の背中に、ヤモリのようにペッタリくっついて、青く光る目で、じっと、こちらをにらんでいるのです。
技師は、鉄の玉の中にはいっているのですから、どんな怪物がやってきても、へいきなのですが、しかし、かれは、鉄の人魚の姿のおそろしさに、ゾーッとして、からだがすくんでしまいました。
魚形潜航艇は、すぐ目の前にきていました。むこうは、自由じざいに動けるのに、こちらはハヤブサ丸からロープでつりさげられているのですから、にげることもできません。技師は潜水機の中にある電話機をとって叫びました。
「はやく引きあげてくれえ……。おそろしい潜航艇がやってきた。その背中に、鉄の人魚がのっている……。」
「なに、潜航艇だって? それはほんとうかっ。」
ハヤブサ丸の船長の声が、ききかえしてきました。
「そうだ。さかなのかたちをした、おそろしい潜航艇だ。もう目の前に近づいてきた。あぶない。はやく、はやく、引きあげてくださいっ。」
すると、ハヤブサ丸では、引きあげ作業をはじめたらしく、潜水機はすこしずつ、上の方へのぼっていきます。
そのとき、ギョッとするようなことが、おこりました。
目の前の、魚形潜航艇の、まるい口のような穴から、ヘビの舌みたいな、長い黒い棒が、パッと、とびだしてきたのです。その棒のさきは二つにわれていて、ものをはさむようになっていました。そして、そのハサミが、技師の乗っている潜水機の上の方へ、のびてきたのです。
技師はいそいで、上にひらいている小さなガラス窓からのぞきました。あっ、怪物の鉄のハサミは、潜水機をつりあげているロープを、はさもうとしているではありませんか。
「たいへんだあ。敵はロープを、きろうとしている。はやく、はやく、もっとぐんぐん、引きあげてくれっ。」
ハヤブサ丸では、ロープまきとりのエンジンを、いっそうはやく回転させました。その力で、潜水機がグラッとゆれて、真上にいる魚形潜航艇にぶっつかりそうです。
技師は、前にあるハンドルを、めちゃくちゃに、まわしました。すると、潜水機の外につき出している鉄の腕が、左右にグッグッと動いて、潜航艇のよこはらを、たたきつけました。艇の背中に、しがみついている鉄の人魚が、ぐっと、こちらに首をのばして、リンのように光る目で、にらみつけました。
技師は、またハンドルを、ガチガチやります。鉄の腕が怪物の方にのびて、ワニのようなしっぽを、つかみそうになりました。
潜航艇の鉄の舌と、潜水機の鉄の腕の、おそろしいつかみあいです。機械と機械の、たたかいです。
海の底の水はうずをまいて、あわだち、さかなどもは逃げまわり、まるい鉄の潜水機は、ブランブランとゆれ動き、潜航艇はロープをはなすまいと、右に左にしっぽをふり、鉄の人魚は、その背中の上で、あばれまわり、命がけのたたかいが、つづけられました。