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海底魔术师-明智侦探来了
日期:2021-09-08 23:51  点击:255

明智探偵きたる


 午後五時といえば、もう一時間あまりのちです。みんなは、そのまま甲板に立ちつくして、明智の乗っている船が来るのを待っていました。
「有力な武器って、いったいなんだろうね。いくら名探偵でも、敵が魚形潜航艇をもっているとは知らなかっただろうから、あれに勝てるような武器をもってくるかどうか、心配だね。」
 船長は技師にむかって、そんなことを、ささやいていました。無電で問いあわせても、武器のことはなにもこたえないのです。
 こちらでは小林少年と賢吉少年が、明るい顔で話しあっていました。
「小林さん、さすがは明智先生だねえ。きのう、この船から、きみがうった無電で、鉄の人魚がついてきたことを知って、先生はすぐに大阪へこられたんだね。きっと飛行機だよ。そしてけさはやく、大阪港を出発されたんだね。それにしても、有力な武器って、なんだろう?」
「ぼくもしらないよ。先生はいつも、ぼくたちよりも、ずっとさきのことを考えていらっしゃる。だから、この事件をひきうけられたときに、ちゃんと武器の用意ができていたのかもしれないよ。もうだいじょうぶだ。先生がきてくだされば、もうしめたもんだよ。」
 小林君は、うれしそうに、にこにこしていうのでした。
 やがて、はるか水平線のかなたに、ひとすじの煙が見え、双眼鏡をのぞくと、そこに白い汽船の小さな姿があらわれました。商船会社のカモメ丸という快速船です。それは潮ノ岬を通る定期客船ですが、ひじょうに速力のはやい船なので、明智はそれに乗ってくるということが、無電でわかっていたのです。
 船体をまっ白にぬったカモメ丸は、見る見る大きくなってきました。ハヤブサ丸の甲板の人たちはハンカチをふり、ばんざいをとなえて、これをむかえました。
 美しいカモメ丸は、五十メートルほど、むこうの海面にとまり、ボートがおろされています。むこうの甲板にも、船客たちがすずなりになって、こちらを見ています。きっと金塊引きあげのうわさをきいていたのでしょう。
 おろされたボートは、四人の水夫がオールをこいで、一直線にこちらへ近づいてきました。ばんざいの声が、ハヤブサ丸の甲板にどよめきました。
 ボートの中に、すっくと立っているのは、われらの名探偵明智小五郎でした。せいの高いからだに、よくにあう黒の背広、モジャモジャ頭を、風になびかせ、右手を高くあげて、あいさつしています。
「おやっ、あれはなんだろう。海ぼうずみたいなものが、やってきたぞ。」
 だれかが、どなりました。見ると、カモメ丸の船尾の方から、黒い大きな怪物が、ボートのあとをおって、こちらへやってくるではありませんか。背中に大きなコブのある、クジラのような黒いやつです。よく見ると、背中のコブの上に、ほそい鉄の棒のようなものが立っています。小林君がさけびました。
「賢ちゃん、あれペリスコープだよ。潜航艇の中から海の上を見る潜望鏡だよ。だから、あれは潜航艇なんだ。ワーッ、すてき。ぼくたちの潜航艇がきたんだよ。」
「ほんとだ。もうだいじょうぶだね。あれで、敵の魚形潜航艇をやっつけちゃうんだ。ねえ小林さん、明智先生はえらいねえ。」
 ふたりの少年は、おどりあがって、よろこぶのでした。甲板の人たちも、みかたの潜航艇がきたというので、大さわぎです。またしてもばんざい、ばんざいの声が、わきあがりました。
 やがてボートはハヤブサ丸に横づけになり、明智は鉄ばしごをのぼって、甲板に姿をあらわしました。そして、すがりついていく小林君の肩をだきながら、賢吉君のおとうさんと船長と技師とに、あいさつし、おたがいの報告をとりかわすのでした。おおぜいの船員たちが、そのまわりをぐるっととりまいて、名探偵の姿に見いっています。
「そうでしたか。敵も潜航艇をもっていたのですか。ぼくはそこまでは考えなかったけれども、鉄の人魚をやっつけるのには、潜航艇がなくてはだめだと思ったので、さいしょからその用意をしていたのです。いま日本には、むかし海軍がつかったような潜航艇はないけれども、民間でつくった海底遊覧用の小型潜航艇が、東洋汽船会社に保管されていることを知ったので、それに手入れをして、いつでも動くように、用意させておいたのです。そういう潜航艇ですから、水雷(すいらい)を発射することはできませんが、かたちは海軍の潜航艇をそのまま小さくしたようなものです。敵をおどかすのにはじゅうぶんです。
 その潜航艇は神戸から大阪湾にまわしてあったので、それをカモメ丸にひかせて、ここまでもってきたのです。」
 それから、しばらく相談したあとで、明智は、つぎのような案をだしました。
「あの潜航艇には、うでのある操縦士がふたりのっています。やりかたをよくおしえたうえ、あれを大洋丸のそばへ沈めるのです。そして、敵の魚形潜航艇を、遠くの方へ、おびきだします。三十分ぐらいはかならず、大洋丸から遠ざけておきます。われわれの潜航艇には無電装置がありますから、刻々その報告をうけることができます。そして、その三十分のあいだに、この船から潜水夫がもぐり、大洋丸の中をさがして、金塊のありかを、さがすのです。三十分ずつにくぎって、なんどでも、それをくりかえすことができます。」
 そこで、ともかく、その方法でやってみることになり、操縦士をよんで、くわしくさしずをしたうえ潜航艇を沈めることになりました。いよいよ、明智の潜航艇と敵の魚形潜航艇とのたたかいがはじまるのです。


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