怪人のダンダラぞめの姿が、大きな岩かげに、かくれました。ふたりの潜水夫は、そこへいそぎましたが、陸上のように、はやくは、はしれません。やっと岩かげにたどりついてみると、そこにはもう、なにもいませんでした。
どこへ逃げたのかと、水中電灯をふりてらして、四方八方をすかして見ましたが、どこにも敵の姿がありません。
たった、あれだけのひまに、遠くへ逃げられるはずはないのです。といって、この大岩のほかには、かくれるような場所もありません。ふたりの潜水夫は、「へんだなあ!」というような身ぶりをして、潜水カブトの顔を見あわせました。
ふたりが、なおも、あたりをさがしていますと、大岩のねもとに、なにかもぞもぞと動いているのに気がつきました。青ぐろい岩が、うごめいているのです。ふたりはおどろいて、その方へ水中電灯をさしつけました。
いや、岩ではありません。岩とそっくりの、なんだか、えたいのしれない大きなものが、岩のねもとをはなれて、こっちへやってくるのです。
「あっ、カニだっ!」
ひとりの潜水夫が、かぶとの中で、おもわずさけび、その声がハヤブサ丸の受話器に、けたたましくひびきました。
岩と見えたのは、一ぴきの巨大なカニでした。人間の二倍もある、おそろしいカニでした。一メートルもあるような大きなハサミを、ぐっともちあげて、ひらいたり、しめたりしながら、八本の足で、ごそごそと、はってくるのです。
ゴムまりほどの、白っぽい目玉が、ニューッと、とびだしています。その目玉をぐるぐるまわしながら近づいてくるのです。
「ワーッ!」というような、さけび声が、二重になって、ハヤブサ丸の受話器にひびきました。ふたりの潜水夫が、一度に、さけんだのです。そして、いきなり逃げだしたのです。
おばけガニは、逃げる潜水夫たちを、五―六メートル追っかけましたが、なにをおもったのか、そのまま向きをかえて、むこうの方へ、とおざかっていきます。そして、やみの中へとけこむように、見えなくなってしまいました。
ふたりの潜水夫は、潜水カブトの中の電話で、すぐに、引きあげてくれるように、たのみました。
ハヤブサ丸の甲板にもどると、みんなにとりかこまれて、海底のできごとをくわしく話しましたが、それをきいた明智探偵は、小首をかしげながら、こんなことをいいました。
「そんな大きなカニが、このへんにいるはずはない。ひょっとしたら、悪人の手品かもしれないぞ。カニのいしょうをかぶって、逃げだしたのかもしれないぞ。そのいしょうは、うすい金属かビニールで、できているのかもしれない。そして、それを小さくおりたたんで、岩の穴の中に、かくしておいたのかもしれない。」
「えっ、すると、あのカニの中に、金塊どろぼうが、はいっていたのでしょうか。」
潜水夫のひとりが、びっくりしていいました。
「どうも、そうとしかかんがえられない。岩のかげにかくれたまま消えてしまうなんて、人間わざではできないことだからね。金塊どろぼうの怪人団は、魔術師だよ。いよいよ、その本性をあらわしてきたんだ。おもしろくなってきたね。ぼくは、こういう魔術師みたいなあいてでないと、はりあいがないのだよ。」
名探偵は、そういって、モジャモジャの頭を、指でかきまわしながら、にっこり笑うのでした。
海底魔术师-螃蟹精(2)
日期:2021-09-08 23:53 点击:265
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