そっと、首を出して見ますと、おばけガニは、そのまっすぐの岩はだに、八本の足でつかまって、下へ下へと、おりていきます。ほんとうのカニではありませんから、そんなにうまく、岩がつかめるものではありません。いまにも、すべりおちそうで、見ているだけでも、おしりのへんが、くすぐったくなるようです。
「あっ!」
明智は、おもわず、声をたてました。おばけガニが、ズルズルと、すべったのです。一度すべりだせば、とても、とまるものではありません。八本の足が、岩はだから、はなれてしまって、大ガニは、サーッと、下へ落ちていきました。そして見る見る、かたちが小さくなり、あわだつ海の中へ消えてしまいました。
海に落ちても、大ガニのなかの二十面相は、死ぬようなことはなかったでしょう。いつかもあの大ガニは、海の底を、へいきで歩いていたのです。きっと、カニの中にも、酸素のボンベがついていて、二十面相は、それでいきをして、海の底を、はいまわることができるのでしょう。
かれは、そうして、どこかへ、逃げてしまうのではないでしょうか。しかし、用心ぶかい明智探偵は、こういう場合も、ちゃんと、考えにいれていました。
さっき、入口の岩を動かして、この岩あなにはいったとき、大いそぎで、手帳の紙をやぶって、鉛筆でなにか書いて、それを岩のすきまから、外へ落としておいたのです。
首領を追っかけてきた八人の勇士や、小林少年が、それを見つけたに、ちがいありません。そして、そこに書いてある、さしずに、したがって、八人のはだかの勇士は、水中メガネと、ボンベと、水かきをつけて、海底の洞窟の外へ泳ぎだし、そこに待っていた五人の勇士と、いっしょになって、敵が海底に、姿をあらわすのを待ちかまえていることでしょう。
それは、明智が考えたとおりにはこびました。十三人のはだかの勇士は、洞窟の入口のあたりを、かっぱつに泳ぎまわっていたのです。
そこへ、海の上のほうから、大きなものが、はげしいいきおいで落ちてきて、スーッと海底に沈んできました。見おぼえのある、おばけガニです。
十三人の勇士は、それを見ると八方から泳ぎよって、おばけガニに、くみついていきました。
うす暗い海底の、大格闘です。大ガニは巨大なハサミをふりたて、八本の足を、めちゃくちゃに動かして勇士たちをふりほどこうとしましたが、一ぴきと十三人では、いくらおばけガニでも、かなうはずがありません。長い時間の、おそろしいたたかいののち、おばけガニは、とうとうグッタリとなってしまいました。
十三びきのアリがコオロギの死がいを、はこぶようなぐあいに、勇士たちはてんでに、おばけガニの足を、ひっぱって、海面に浮きあがってきました。
すると、そこに、みかたの潜航艇が、ハッチのふたをひらいて、まちかまえていたのです。十三人の勇士は、潜航艇にのぼりつき、おばけガニをかついで、ハッチの中へ落としこみました。
それから一時間ほどのち、ハヤブサ丸の甲板には、明智探偵と小林少年と十三人の勇士が、もどっていました。そして、甲板の床には、おばけガニのからが、なげだされ、そのそばに、怪人二十面相が、息もたえだえに、よこたわっていました。
そこには宮田さんや賢吉少年の顔も見えました。それをとりまく、おおぜいの船員は、両手を高くあげて、ばんざいを、さけんでいました。
そののち、大洋丸の金塊が、のこらず、宮田さんの手にはいったことは、もうすまでもありません。
海底魔术师-螃蟹精的下场(2)
日期:2021-09-10 07:05 点击:314
- 上一篇:海底魔术师-螃蟹精(2)
- 下一篇:暂无