篠崎、桂の二少年は、用意の万年筆型懐中電燈をとりだすと、男の子に教えられた地点へ走っていって、暗い地面を照らしながら、もうほかに記章は落ちていないかと、熱心にさがしはじめました。
「ああ、あった、あった。ここにも一つ落ちている。」
懐中電燈の光の中に、新しい鉛の記章がキラキラとかがやいているのです。
「敵の自動車は、この道を通ったにちがいない。きみ、呼び子を吹いて、みんなを集めよう。」
ふたりはポケットの七つ道具の中から、呼び子をとりだして、息をかぎりに吹きたてました。
夜の空に、はげしい笛の音がひびきわたりますと、まださほど遠くへ行っていなかった残りの五人の少年が、彼らも呼び子で答えながら、どこからともなく、その場へ集まってきました。
「おい、みんな、この道にBDバッジが二つも落ちていたんだ。小林さんが落としていったものにちがいない。もっとさがせば、まだ見つかるかもしれない。みんなさがしてくれたまえ。そして、落ちているバッジをたどっていけば、犯人の巣くつをつきとめることができるんだ。」
桂少年のさしずにしたがって、五人の少年も、それぞれ万年筆型懐中電燈をとりだして、いっせいに地面をさがしはじめました。そのさまは、まるで[#「まるで」は底本では「さるで」]七ひきのホタルが、やみの中をとびかわしているようです。
「あった、あった。こんなところに、泥まみれになっている。」
ひとりの少年が、少し先のところで、また、一つのバッジをひろいあげてさけびました。これで三つです。
「うまい、うまい。もっと先へ進もう。ぼくらは、こうして、だんだん黒い怪物のほうへ近づいているんだぜ。さすがに小林さんは、うまいことを考えたなあ。」
そして、七ひきのホタルは、やみの広っぱの中を、みるみる、向こうのほうへ遠ざかっていくのでした。
地下室では、もう水が一メートルほどの深さになっていました。
緑ちゃんをだいた小林君は、立っているのがやっとでした。水は胸の上まで、ヒタヒタとおしよせているのです。
天井の管からの滝は、少しもかわらぬはげしさで、ぶきみな音をたてて、降りそそいでいます。
緑ちゃんは、この地獄のような恐怖に、さいぜんから泣きさけんで、もう声も出ないほどです。
「こわくはない、こわくはない。にいちゃんがついているから、大じょうぶだよ。ぼくはね、泳ぎがうまいんだから、こんな水なんてちっともこわくはないんだよ。そして、今におまわりさんが、助けにいらっしゃるからね。いい子だから、ぼくにしっかりつかまっているんだよ。」
しかし、そういううちにも、水かさは刻一刻と増すばかり、小林君自身が、もう不安にたえられなくなってきました。それに、春とはいっても、水の中は身もこおるほどのつめたさです。
ああ、ぼくは緑ちゃんといっしょに、この、だれも知らない地下室で、おぼれ死んでしまうのかしら。道へ探偵団のバッジを落としておいたけれど、もし団員があすこを通りかからなかったら、なんにもなりゃしないのだ。明智先生はどうしていらっしゃるかしら。こんなときに先生が東京にいてくださったら、まるで奇跡のようにあらわれて、ぼくらを救いだしてくださるにちがいないのだがなあ。
そんなことを考えているうちにも、水は、もうのどのへんまでせまってきました。
からだが水の中でフラフラして、立っているのも困難なのです。
小林君は、緑ちゃんを背中にまわして、しっかりだきついているようにいいふくめ、いよいよつめたい水の中を泳ぎはじめました。せめて手足を動かすことによって寒さをわすれようとしたのです。
でもこんなことが、いつまでつづくものでしょう。緑ちゃんという重い荷物をせおった小林君は、やがて力つきておぼれてしまうのではないでしょうか。いや、それよりも、もっと水かさが増して、天井いっぱいになってしまったら、どうするつもりでしょう。そうなれば、泳ごうにも泳げはしないのです。息をするすきもなくなってしまうのです。
「ああ、あった、あった。ここにも一つ落ちている。」
懐中電燈の光の中に、新しい鉛の記章がキラキラとかがやいているのです。
「敵の自動車は、この道を通ったにちがいない。きみ、呼び子を吹いて、みんなを集めよう。」
ふたりはポケットの七つ道具の中から、呼び子をとりだして、息をかぎりに吹きたてました。
夜の空に、はげしい笛の音がひびきわたりますと、まださほど遠くへ行っていなかった残りの五人の少年が、彼らも呼び子で答えながら、どこからともなく、その場へ集まってきました。
「おい、みんな、この道にBDバッジが二つも落ちていたんだ。小林さんが落としていったものにちがいない。もっとさがせば、まだ見つかるかもしれない。みんなさがしてくれたまえ。そして、落ちているバッジをたどっていけば、犯人の巣くつをつきとめることができるんだ。」
桂少年のさしずにしたがって、五人の少年も、それぞれ万年筆型懐中電燈をとりだして、いっせいに地面をさがしはじめました。そのさまは、まるで[#「まるで」は底本では「さるで」]七ひきのホタルが、やみの中をとびかわしているようです。
「あった、あった。こんなところに、泥まみれになっている。」
ひとりの少年が、少し先のところで、また、一つのバッジをひろいあげてさけびました。これで三つです。
「うまい、うまい。もっと先へ進もう。ぼくらは、こうして、だんだん黒い怪物のほうへ近づいているんだぜ。さすがに小林さんは、うまいことを考えたなあ。」
そして、七ひきのホタルは、やみの広っぱの中を、みるみる、向こうのほうへ遠ざかっていくのでした。
地下室では、もう水が一メートルほどの深さになっていました。
緑ちゃんをだいた小林君は、立っているのがやっとでした。水は胸の上まで、ヒタヒタとおしよせているのです。
天井の管からの滝は、少しもかわらぬはげしさで、ぶきみな音をたてて、降りそそいでいます。
緑ちゃんは、この地獄のような恐怖に、さいぜんから泣きさけんで、もう声も出ないほどです。
「こわくはない、こわくはない。にいちゃんがついているから、大じょうぶだよ。ぼくはね、泳ぎがうまいんだから、こんな水なんてちっともこわくはないんだよ。そして、今におまわりさんが、助けにいらっしゃるからね。いい子だから、ぼくにしっかりつかまっているんだよ。」
しかし、そういううちにも、水かさは刻一刻と増すばかり、小林君自身が、もう不安にたえられなくなってきました。それに、春とはいっても、水の中は身もこおるほどのつめたさです。
ああ、ぼくは緑ちゃんといっしょに、この、だれも知らない地下室で、おぼれ死んでしまうのかしら。道へ探偵団のバッジを落としておいたけれど、もし団員があすこを通りかからなかったら、なんにもなりゃしないのだ。明智先生はどうしていらっしゃるかしら。こんなときに先生が東京にいてくださったら、まるで奇跡のようにあらわれて、ぼくらを救いだしてくださるにちがいないのだがなあ。
そんなことを考えているうちにも、水は、もうのどのへんまでせまってきました。
からだが水の中でフラフラして、立っているのも困難なのです。
小林君は、緑ちゃんを背中にまわして、しっかりだきついているようにいいふくめ、いよいよつめたい水の中を泳ぎはじめました。せめて手足を動かすことによって寒さをわすれようとしたのです。
でもこんなことが、いつまでつづくものでしょう。緑ちゃんという重い荷物をせおった小林君は、やがて力つきておぼれてしまうのではないでしょうか。いや、それよりも、もっと水かさが増して、天井いっぱいになってしまったら、どうするつもりでしょう。そうなれば、泳ごうにも泳げはしないのです。息をするすきもなくなってしまうのです。