消えるインド人
ちょうどそのころ、篠崎始君や、相撲選手の桂正一君や、羽柴壮二君などで組織された、七人の少年捜索隊は、早くもインド人の逃走した道すじを、発見していました。
それは小林君が、インド人に、かどわかされる道々、自動車の上から落としていった、少年探偵団のバッジが目じるしとなったのです。七人の捜索隊員は、夜道に落ち散っている銀色のバッジをさがしながら、いつしか例のあやしげな洋館の門前まで、たどりついていました。
「おい、この家があやしいぜ。ごらん、門のなかにも、バッジが落ちているじゃないか。ほら、あすこにさ。」
目ざとく、それを見つけた羽柴少年が、桂正一君にささやきました。
「ウン、ほんとだ。よし、しらべてみよう。みんな伏せるんだ。」
桂君が手まねきをしながら、ささやき声で一同にさしずしますと、たちまち七人の少年の姿が消えてしまいました。イヤ、消えたといっても魔法を使ったわけではありません。号令いっか、みんながいっせいに、暗やみの地面の上に、腹ばいになって、伏せの形をとったのです。団員一同、一糸みだれぬ、みごとな統制ぶりです。
そして、まるで黒いヘビがはうようにして、七人が洋館の門の中へはいり、地面をしらべてみますと、門から洋館のポーチまでの間に、五つのバッジが落ちているのを発見しました。
「おい、やっぱり、ここらしいぜ。」
「ウン、小林団長と緑ちゃんとは、この家のどっかにとじこめられているにちがいない。」
「早く助けださなけりゃ。」
少年たちは伏せの姿勢のままで、口々にささやきかわしました。
七人のうちで、いちばん身軽な羽柴少年は、ソッとポーチにはいあがって、ドアのすきまからのぞいてみましたが、中はまっくらで、人のけはいもありません。
「裏のほうへまわって、窓からのぞいてみよう。」
羽柴君は、みんなにそうささやいておいて、建物の裏手のほうへはいっていきました。一同、そのあとにつづきます。
裏手へまわってみますと、案のじょう、二階の一室に電燈がついていて、窓が明るく光っています。しかし、二階ではのぞくことができません。
「なわばしごをかけようか。」
ひとりの少年が、ポケットをさぐりながら、ささやきました。少年探偵団の七つ道具の中には、絹ひもで作った手軽ななわばしごがあるのです。まるめてしまえばひとにぎりほどに小さくなってしまうのです。
「いや、なわばしごを投げて、音がするといけない。それよりも肩車にしよう。さあ、ぼくの上へ、じゅんに乗りたまえ。羽柴君は軽いからいちばん上だよ。」
桂正一少年は、そういったかと思うと、洋館の壁に両手をついて、ウンと足をふんばりました。よくふとった相撲選手の桂君は、肩車の踏み台にはもってこいです。つぎには、中くらいの体格の一少年が、桂君の背中によじのぼって、その肩の上に足をかけ、壁に手をついて身がまえますと、こんどは身軽な羽柴君が、サルのようにふたりの肩をのぼり、二番めの少年の肩へ両足をかけました。
ころをはかって、今まで、背をかがめていた桂君と二番めの少年とが、グッとからだをのばしました。すると、いちばん上の羽柴君の顔が、ちょうど二階の窓の下のすみにとどくのです。
まるで軽業のような芸当ですが、探偵団員たちは、日ごろから、いざというときの用意に、こういうことまで練習しておいたのです。
羽柴君は、窓わくに手をかけて、ソッと部屋の中をのぞきました。窓にはカーテンがさがっていましたけれど、大きなすきまができていて、部屋のようすは手にとるようにながめられました。