そこには、いったい何があったのでしょう。かねて予期しなかったのではありませんが、部屋の中のふしぎな光景に羽柴君はあやうく、アッと声をたてるところでした。
部屋のまんなかに、ふたりのおそろしい顔をしたインド人がすわっていました。墨のように黒い皮膚の色、ぶきみに白く光る目、厚ぼったいまっ赤なくちびる、服装も写真で見るインド人そのままで、頭にはターバンというのでしょう、白い布をグルグルと帽子のように巻いて、着物といえば、大きなふろしきみたいな白い布を肩からさげているのです。
インド人の前の壁には、なんだか魔物みたいなおそろしい仏像の絵がかかって、その前の台の上には大きな香炉が紫色の煙をはいています。
ふたりのインド人は、すわったまま、壁の仏像に向かって、しきりと礼拝しているのです。ひょっとしたら、小林少年と緑ちゃんとを、魔法の力で祈り殺そうとしているのかもしれません。
見ているうちに、背中がゾーッと寒くなってきました。これが東京のできごとなのかしら、もしや、おそろしい魔法の国へでも、まよいこんだのじゃないかしら。羽柴君はあまりのきみ悪さに、もう、のぞいている気がしませんでした。
急いであいずをおくると、下のふたりにしゃがんでもらって、地面におり立ちました。そして、やみの中で顔をよせてくる六人の少年たちに、ささやき声で、室内のようすを報告しました。
「いよいよそうだ。あんなにバッジが落ちていたうえに、ふたりのインド人がいるとすれば、ここが、やつらの巣くつにきまっている。」
「じゃ、ぼくたちで、ここの家へふみこんで、インド人のやつをとらえようじゃないか。」
「いや、それよりも、小林団長と緑ちゃんを助けださなくっちゃ。」
「待ちたまえ、はやまってはいけない。」
口々にささやく少年たちをおさえて、桂正一君が、おもおもしくいいました。
「いくら大ぜいでも、ぼくたちだけの力で、あの魔法使いみたいなインド人を、とらえることはできないよ。もし、しくじったらたいへんだからね。だからね、みんなぼくのさしずにしたがって、部署についてくれたまえ。」
桂君はそういって、だれは表門、だれは裏門、だれとだれは庭のどこというように、建物をとりまいて、少年たちで見はりをつとめるようにさしずしました。
「もし、インド人がこっそり逃げだすのを見たら、すぐ、呼び子を吹くんだよ。いいかい。それからね、篠崎君、きみはランニングがとくいだから、伝令の役をつとめてくれないか。この近くの電話のあるところまで走っていってね、きみの家へ電話をかけるんだ。犯人の巣くつを発見しましたから、すぐ来てくださいってね。そのあいだ、ぼくらはここに見はりをしていて、けっしてやつらを逃がしやしないから。」
団長がわりの桂君は、てきぱきと、ぬけめなく指令をあたえました。
篠崎君が、「よしッ。」と答えて、やっぱり地面をはうようにしながら、立ちさるのを待って、残る六人は、それぞれの部署にわかれ、四ほうから洋館を監視することになりました。
しかし、そんなことをしているあいだに、小林君がおぼれてしまうようなことはないでしょうか。水が地下室の天井までいっぱいになってしまうようなことはないでしょうか。ひょっとすると、まにあわないかもしれません。ああ、早く、早く。おまわりさんたち、早くかけつけてください。
それから篠崎君のしらせによって、ちょうど篠崎家に居あわした、警視庁の中村捜査係長が、数名の部下をひきつれ、自動車をとばして、洋館にかけつけるまでに、およそ二十分の時間がすぎました。ああ、その待ちどおしかったこと。
でも、少年捜索隊がさいしょバッジをひろってから、もうたっぷり一時間はたっています。つまり小林君が緑ちゃんをおぶって泳ぎだしてから、それだけの時がすぎさったのです。ああ、ふたりは、まだぶじでいるでしょうか。せっかくおまわりさんたちがかけつけたときには、もうおそかったのではないのでしょうか。
部屋のまんなかに、ふたりのおそろしい顔をしたインド人がすわっていました。墨のように黒い皮膚の色、ぶきみに白く光る目、厚ぼったいまっ赤なくちびる、服装も写真で見るインド人そのままで、頭にはターバンというのでしょう、白い布をグルグルと帽子のように巻いて、着物といえば、大きなふろしきみたいな白い布を肩からさげているのです。
インド人の前の壁には、なんだか魔物みたいなおそろしい仏像の絵がかかって、その前の台の上には大きな香炉が紫色の煙をはいています。
ふたりのインド人は、すわったまま、壁の仏像に向かって、しきりと礼拝しているのです。ひょっとしたら、小林少年と緑ちゃんとを、魔法の力で祈り殺そうとしているのかもしれません。
見ているうちに、背中がゾーッと寒くなってきました。これが東京のできごとなのかしら、もしや、おそろしい魔法の国へでも、まよいこんだのじゃないかしら。羽柴君はあまりのきみ悪さに、もう、のぞいている気がしませんでした。
急いであいずをおくると、下のふたりにしゃがんでもらって、地面におり立ちました。そして、やみの中で顔をよせてくる六人の少年たちに、ささやき声で、室内のようすを報告しました。
「いよいよそうだ。あんなにバッジが落ちていたうえに、ふたりのインド人がいるとすれば、ここが、やつらの巣くつにきまっている。」
「じゃ、ぼくたちで、ここの家へふみこんで、インド人のやつをとらえようじゃないか。」
「いや、それよりも、小林団長と緑ちゃんを助けださなくっちゃ。」
「待ちたまえ、はやまってはいけない。」
口々にささやく少年たちをおさえて、桂正一君が、おもおもしくいいました。
「いくら大ぜいでも、ぼくたちだけの力で、あの魔法使いみたいなインド人を、とらえることはできないよ。もし、しくじったらたいへんだからね。だからね、みんなぼくのさしずにしたがって、部署についてくれたまえ。」
桂君はそういって、だれは表門、だれは裏門、だれとだれは庭のどこというように、建物をとりまいて、少年たちで見はりをつとめるようにさしずしました。
「もし、インド人がこっそり逃げだすのを見たら、すぐ、呼び子を吹くんだよ。いいかい。それからね、篠崎君、きみはランニングがとくいだから、伝令の役をつとめてくれないか。この近くの電話のあるところまで走っていってね、きみの家へ電話をかけるんだ。犯人の巣くつを発見しましたから、すぐ来てくださいってね。そのあいだ、ぼくらはここに見はりをしていて、けっしてやつらを逃がしやしないから。」
団長がわりの桂君は、てきぱきと、ぬけめなく指令をあたえました。
篠崎君が、「よしッ。」と答えて、やっぱり地面をはうようにしながら、立ちさるのを待って、残る六人は、それぞれの部署にわかれ、四ほうから洋館を監視することになりました。
しかし、そんなことをしているあいだに、小林君がおぼれてしまうようなことはないでしょうか。水が地下室の天井までいっぱいになってしまうようなことはないでしょうか。ひょっとすると、まにあわないかもしれません。ああ、早く、早く。おまわりさんたち、早くかけつけてください。
それから篠崎君のしらせによって、ちょうど篠崎家に居あわした、警視庁の中村捜査係長が、数名の部下をひきつれ、自動車をとばして、洋館にかけつけるまでに、およそ二十分の時間がすぎました。ああ、その待ちどおしかったこと。
でも、少年捜索隊がさいしょバッジをひろってから、もうたっぷり一時間はたっています。つまり小林君が緑ちゃんをおぶって泳ぎだしてから、それだけの時がすぎさったのです。ああ、ふたりは、まだぶじでいるでしょうか。せっかくおまわりさんたちがかけつけたときには、もうおそかったのではないのでしょうか。