「ええ、表門からはいりました。」
「そのとき、表門には、ふたりの子どもが番をしていたのですよ。その子どもたちを、ごらんになりましたか。門柱のところに、番兵のように立っていたっていうのですが。」
「ほう、そうですか。わたしはちっとも気がつきませんでしたよ。ちょうどそのとき、子どもたちがわきへ行っていたのかもしれませんね。げんじゅうな見はりといったところで、なにしろ年はもいかない小学生のことですから、あてにはなりませんでしょう。」
「ところが、子どもというものはばかになりませんよ。何かに一心になると、おとなのように、ほかのことは考えませんからね。ぼくはこういうばあいには、おとなよりも子どものほうが信用がおけると思います。
ぼくはきょう、ここへおたずねするまえに、いろいろな用件をすませてきたのですが、その門番をつとめた子どもに会ってみるのも、用件の一つでした。そして、よく聞きただしてみますと、その子どもは、けっして持ち場をはなれなかったし、わき見さえしなかったといいはるのです。子どもは、うそをつきませんからね。」
「で、その子どもは、わたしの姿を見たといいましたか。」
「いいえ、見なかったというのです。門をはいったものも、出たものも、ひとりもなかったと断言するのです。」
明智探偵は、そういって、じっと春木氏の美しい顔を見つめました。
「おやおや、すると、わたしまでがなんだか魔法でも使ったようですね。これはおもしろい。ハハハ。」
春木氏はなんとなく、ぎこちない笑い方をしました。
「ハハハ……。」
明智探偵も、さもおかしそうに、声をそろえて笑いましたが、その声には、何かするどいとげのようなものがふくまれていました。
「二を引きさって、二を加える。え、この意味がおわかりですか。すると、もともとどおりになりますね。かんたんな引き算と足し算です。」
探偵は何かなぞのようなことをいったまま、またべつの話にうつりました。
「ところで、ぼくはきょう、養源寺の墓地と篠崎家の裏庭で、おもしろいものを発見しましたよ。なんだと思います。その間をつなぐせまい地下のぬけ穴なんですよ。
養源寺と篠崎家とは、町名がちがっているし、表門はひどくはなれていますが、裏では十メートルほどのあき地をへだてて、まるでくっついているといってもいいのです。
インド人のやつは、この、ちょっと考えるとひじょうに遠いという、人間の思いちがいを利用したのですよ。そして、そこにわけもなく地下道を作って、あの煙のように消えうせるという魔法を使ってみせたのです。
養源寺の墓地には、古い石塔の台石を持ちあげると、その下にポッカリ地下道の入り口があいていましたし、篠崎さんの庭のほうは、穴の上に厚い板をのせて、その板の上にいちめんに草のはえた土がおいてありました。ちょっと見たのでは、ほかの地面と少しもちがいがないのです。穴のある近所は、いろいろな木がしげっていて、うす暗いのですからね。なんとうまいカムフラージュじゃありませんか。
インド人は、墓地の中で消えうせたときには、この地下道から篠崎家へ逃げこみ、篠崎家の宝石をぬすんだときには、やっぱり、この道を通って、養源寺のほうへぬけてしまったのです。その両方の地面は、表がわは、まるでちがう町なんですからね、わかりっこありませんよ。ハハハ……、これがインド人の魔術の種あかしです。」
聞いているうちに、春木氏の顔に、ひじょうなおどろきの色がうかんできました。でも、しいてそれをおしかくすようにして、
「しかし、宝石をぬすむだけのために、どうしてそんな手数のかかるしかけをしたんでしょうね。もっと手がるな手段がありそうなものじゃありませんか。」
「そのとき、表門には、ふたりの子どもが番をしていたのですよ。その子どもたちを、ごらんになりましたか。門柱のところに、番兵のように立っていたっていうのですが。」
「ほう、そうですか。わたしはちっとも気がつきませんでしたよ。ちょうどそのとき、子どもたちがわきへ行っていたのかもしれませんね。げんじゅうな見はりといったところで、なにしろ年はもいかない小学生のことですから、あてにはなりませんでしょう。」
「ところが、子どもというものはばかになりませんよ。何かに一心になると、おとなのように、ほかのことは考えませんからね。ぼくはこういうばあいには、おとなよりも子どものほうが信用がおけると思います。
ぼくはきょう、ここへおたずねするまえに、いろいろな用件をすませてきたのですが、その門番をつとめた子どもに会ってみるのも、用件の一つでした。そして、よく聞きただしてみますと、その子どもは、けっして持ち場をはなれなかったし、わき見さえしなかったといいはるのです。子どもは、うそをつきませんからね。」
「で、その子どもは、わたしの姿を見たといいましたか。」
「いいえ、見なかったというのです。門をはいったものも、出たものも、ひとりもなかったと断言するのです。」
明智探偵は、そういって、じっと春木氏の美しい顔を見つめました。
「おやおや、すると、わたしまでがなんだか魔法でも使ったようですね。これはおもしろい。ハハハ。」
春木氏はなんとなく、ぎこちない笑い方をしました。
「ハハハ……。」
明智探偵も、さもおかしそうに、声をそろえて笑いましたが、その声には、何かするどいとげのようなものがふくまれていました。
「二を引きさって、二を加える。え、この意味がおわかりですか。すると、もともとどおりになりますね。かんたんな引き算と足し算です。」
探偵は何かなぞのようなことをいったまま、またべつの話にうつりました。
「ところで、ぼくはきょう、養源寺の墓地と篠崎家の裏庭で、おもしろいものを発見しましたよ。なんだと思います。その間をつなぐせまい地下のぬけ穴なんですよ。
養源寺と篠崎家とは、町名がちがっているし、表門はひどくはなれていますが、裏では十メートルほどのあき地をへだてて、まるでくっついているといってもいいのです。
インド人のやつは、この、ちょっと考えるとひじょうに遠いという、人間の思いちがいを利用したのですよ。そして、そこにわけもなく地下道を作って、あの煙のように消えうせるという魔法を使ってみせたのです。
養源寺の墓地には、古い石塔の台石を持ちあげると、その下にポッカリ地下道の入り口があいていましたし、篠崎さんの庭のほうは、穴の上に厚い板をのせて、その板の上にいちめんに草のはえた土がおいてありました。ちょっと見たのでは、ほかの地面と少しもちがいがないのです。穴のある近所は、いろいろな木がしげっていて、うす暗いのですからね。なんとうまいカムフラージュじゃありませんか。
インド人は、墓地の中で消えうせたときには、この地下道から篠崎家へ逃げこみ、篠崎家の宝石をぬすんだときには、やっぱり、この道を通って、養源寺のほうへぬけてしまったのです。その両方の地面は、表がわは、まるでちがう町なんですからね、わかりっこありませんよ。ハハハ……、これがインド人の魔術の種あかしです。」
聞いているうちに、春木氏の顔に、ひじょうなおどろきの色がうかんできました。でも、しいてそれをおしかくすようにして、
「しかし、宝石をぬすむだけのために、どうしてそんな手数のかかるしかけをしたんでしょうね。もっと手がるな手段がありそうなものじゃありませんか。」