じつにわけのない話です。変装のうちで、黒ん坊に化けるほど、たやすいことはありませんからね。ぼくは念のために、小林君に、うしろから見える首すじのあたりの色はどうだったとたずねてみましたが、そこは洋服のえりと鳥打ち帽とで、少しも皮膚が見えないように、用心ぶかくかくしてあったということです。」
「で、今井という秘書が、同時に二ヵ所にあらわれたなぞは?」
春木氏は、まるではたしあいでもするような、おそろしく力のこもった声でたずねました。
「たいへん気がかりとみえますね、ハハハ……、それは、犯人が今井君をしばって、その服を着こみ、顔まで今井君に化けたと考えるほかに、方法はありません。
しかし、犯人が今井君とそっくりの顔になれるものでしょうか。ほとんど不可能なことです。でもひろい日本に、たったひとりだけ、その不可能なことのできる人物があります。」
「それは?」
「二十面相です。」
探偵はじつに意外な名まえを、ズバリといって、じっと相手の目の中をのぞきこみました。息づまるようなにらみあいが、三十秒ほどもつづきました。
「二十面相」とはだれでしょう。むろん読者諸君はごぞんじのことと思います。二十のちがった顔を持つといわれた、あの変装の大名人です。今は獄中につながれているはずの、希代の宝石泥棒です。
「おい、二十面相君、しばらくだったなあ。」
明智探偵が、おだやかなちょうしでいって、ポンと春木氏の肩をたたきました。
「な、なにをいっているんです。わたしが、二十面相ですって?」
「ハハ、しらばっくれたって、もうだめだよ。ぼくは今しがた、刑務所へ行ってしらべてきたんだ。そして、あそこにいるのは、にせ者の二十面相だということがわかったのだ。
きみは、さいぜんから、ぼくがなぜ、あんな話をクドクドとしていたと思うのだい。それはね、話をしながら、きみの顔を読むためだったんだよ。つまりきみを試験していたというわけさ。
するときみは、ぼくの話が進むにつれて、だんだん青ざめてきた。そわそわしだした。見たまえ、いっぱいあぶら汗が出ているじゃないか。それが何よりの自白というものだ。
二を引いて二を足すと、もともとどおりだったねえ。つまり、きみときみのコックとが、今井君と運転手に化けたうえ、少年探偵団の子どもたちをだますために、ふたりのインド人になって、みょうなお祈りまでして見せた。
そのインド人が、そのまま、もとのきみとコックにもどればよかったのだから、いくら見はっていても、インド人も逃げださなければ、きみも外からはいってこなかったというわけさ。もともと四人ではなくて、ふたりきりのお芝居だったんだからね。
だが、二十面相が人殺しをしないという主義をかえないのは感心だ。むろんきみは最初から小林君と緑ちゃんは、助けるつもりだったのだろうね。」
探偵がいいおわるかおわらぬに、部屋中にとほうもない笑い声がひびきわたりました。
「ワハハハ……えらい、きみはさすが明智小五郎だよ。よくそこまで考えたねえ。その骨折りにめんじて白状してやろう。いかにもおれは、きみのこわがっている二十面相だよ。
だがねえ、明智君、これはきみの大失敗を、きみ自身でしょうこだてたようなものなんだぜ。わかるかい。
きみはいつか、博物館でおれを逮捕したつもりで、大いばりだったねえ。世間も、やんやと喝采したっけねえ。
「で、今井という秘書が、同時に二ヵ所にあらわれたなぞは?」
春木氏は、まるではたしあいでもするような、おそろしく力のこもった声でたずねました。
「たいへん気がかりとみえますね、ハハハ……、それは、犯人が今井君をしばって、その服を着こみ、顔まで今井君に化けたと考えるほかに、方法はありません。
しかし、犯人が今井君とそっくりの顔になれるものでしょうか。ほとんど不可能なことです。でもひろい日本に、たったひとりだけ、その不可能なことのできる人物があります。」
「それは?」
「二十面相です。」
探偵はじつに意外な名まえを、ズバリといって、じっと相手の目の中をのぞきこみました。息づまるようなにらみあいが、三十秒ほどもつづきました。
「二十面相」とはだれでしょう。むろん読者諸君はごぞんじのことと思います。二十のちがった顔を持つといわれた、あの変装の大名人です。今は獄中につながれているはずの、希代の宝石泥棒です。
「おい、二十面相君、しばらくだったなあ。」
明智探偵が、おだやかなちょうしでいって、ポンと春木氏の肩をたたきました。
「な、なにをいっているんです。わたしが、二十面相ですって?」
「ハハ、しらばっくれたって、もうだめだよ。ぼくは今しがた、刑務所へ行ってしらべてきたんだ。そして、あそこにいるのは、にせ者の二十面相だということがわかったのだ。
きみは、さいぜんから、ぼくがなぜ、あんな話をクドクドとしていたと思うのだい。それはね、話をしながら、きみの顔を読むためだったんだよ。つまりきみを試験していたというわけさ。
するときみは、ぼくの話が進むにつれて、だんだん青ざめてきた。そわそわしだした。見たまえ、いっぱいあぶら汗が出ているじゃないか。それが何よりの自白というものだ。
二を引いて二を足すと、もともとどおりだったねえ。つまり、きみときみのコックとが、今井君と運転手に化けたうえ、少年探偵団の子どもたちをだますために、ふたりのインド人になって、みょうなお祈りまでして見せた。
そのインド人が、そのまま、もとのきみとコックにもどればよかったのだから、いくら見はっていても、インド人も逃げださなければ、きみも外からはいってこなかったというわけさ。もともと四人ではなくて、ふたりきりのお芝居だったんだからね。
だが、二十面相が人殺しをしないという主義をかえないのは感心だ。むろんきみは最初から小林君と緑ちゃんは、助けるつもりだったのだろうね。」
探偵がいいおわるかおわらぬに、部屋中にとほうもない笑い声がひびきわたりました。
「ワハハハ……えらい、きみはさすが明智小五郎だよ。よくそこまで考えたねえ。その骨折りにめんじて白状してやろう。いかにもおれは、きみのこわがっている二十面相だよ。
だがねえ、明智君、これはきみの大失敗を、きみ自身でしょうこだてたようなものなんだぜ。わかるかい。
きみはいつか、博物館でおれを逮捕したつもりで、大いばりだったねえ。世間も、やんやと喝采したっけねえ。