「どうしたんです。あいつは屋根へ逃げたんですか。」
入り口にいた五人の警官が、明智探偵のそばにかけよって、口々にたずねました。
「そうですよ。じつにばかなまねをしたものです。われわれはただ、この家をとりかこんで、じっと待っていてもいいのですよ。そのうちに、やつらはつかれきって、降参してしまうでしょう。もう捕縛したも同じことです。」
探偵は、賊をあわれむようにつぶやきました。
警官たちはすぐさま階下にかけおり、門の外に待機している警官隊に、このことをつたえました。いや、教えられるまでもなく、警官隊のほうでも、もうそれを気づいていました。
命令いっか、五十人あまりのおまわりさんが、表口裏口から門内になだれこみ、たちまち建物の四ほうに、アリものがさぬ円陣をはってしまいました。
指揮官中村捜査係長のさしずで、ふたりの警官が、どこかへ走りさったかと思うと、やがて、五分もたたないうちに、付近の消防署から、消防自動車が邸内にすべりこみ、機械じかけの非常ばしごがやみの大屋根めがけて、スルスルとのびあがりました。
そのはしごを、帽子のあごひもをかけ、靴をぬいで靴下ばかりになった警官が、つぎからつぎへとよじのぼり、懐中電燈をふり照らしながら、屋根の上の大捕り物がはじまりました。
二十面相とコックとは、手をつなぐようにして、屋根の頂上近くに立ちはだかっていました。大屋根にはいあがった警官たちは、それを遠まきにして、捕縄をにぎりしめ、ゆだんなくジリジリと賊にせまっていきます。
「ワハハハ……。」
やみの大空に、気ちがいのような高笑いが爆発しました。賊たちは、この危急のばあいに、何を思ったのか、声をそろえて笑いだしたのです。
「ワハハハ……、ゆかいゆかい、じつにすばらしい景色だなあ。ひとり、ふたり、三人、四人、五人、おお、登ってくる、登ってくる。おまわりさんで屋根がうずまりそうだ。
諸君、足もとに気をつけて、すべらないように用心したまえ。夜露でぬれているからね。ここからころがり落ちたら、命がないのだぜ。おお、そこへ登ってきたのは、中村警部君じゃないか。ご苦労さま。しばらくだったねえ。」
二十面相は傍若無人にわめきちらしています。
「いかにもわしは中村だ。きさまも、とうとう年貢をおさめるときがきたようだね。つまらない虚勢をはらないで、神妙にして、最後を清くするがいい。」
中村係長は、さとすようにどなりかえしました。
「ワハハ……、これはおかしい。最後だって? きみたちは、おれを袋のネズミとでも思っているのかい。もう逃げ場がないとでも思っているのかい。ところが、おれはけっしてつかまえられないんだぜ。おれの仕事はこれからだ。あんな宝石一つぐらいで、年貢をおさめてたまるものか。
おい、中村君、ひとつなぞをかけようか。おれたちがこの大屋根から、どうして逃げだすかというのだ。とけるかい。ハハハ……、二十面相は魔術師なんだぜ。こんどは、どんなすばらしい魔術を使うか、ひとつあててみたまえ。」
賊はあくまで傍若無人です。
二十面相は虚勢をはっているのでしょうか。いや、どうもそうではなさそうです。何かたしかに逃げだせるという確信を持っているらしくみえます。
しかし、四ほう八ぽうからとりかこまれた、この屋根の上を、どうしてのがれるつもりでしょう。いったい、そんなことができるのでしょうか。
入り口にいた五人の警官が、明智探偵のそばにかけよって、口々にたずねました。
「そうですよ。じつにばかなまねをしたものです。われわれはただ、この家をとりかこんで、じっと待っていてもいいのですよ。そのうちに、やつらはつかれきって、降参してしまうでしょう。もう捕縛したも同じことです。」
探偵は、賊をあわれむようにつぶやきました。
警官たちはすぐさま階下にかけおり、門の外に待機している警官隊に、このことをつたえました。いや、教えられるまでもなく、警官隊のほうでも、もうそれを気づいていました。
命令いっか、五十人あまりのおまわりさんが、表口裏口から門内になだれこみ、たちまち建物の四ほうに、アリものがさぬ円陣をはってしまいました。
指揮官中村捜査係長のさしずで、ふたりの警官が、どこかへ走りさったかと思うと、やがて、五分もたたないうちに、付近の消防署から、消防自動車が邸内にすべりこみ、機械じかけの非常ばしごがやみの大屋根めがけて、スルスルとのびあがりました。
そのはしごを、帽子のあごひもをかけ、靴をぬいで靴下ばかりになった警官が、つぎからつぎへとよじのぼり、懐中電燈をふり照らしながら、屋根の上の大捕り物がはじまりました。
二十面相とコックとは、手をつなぐようにして、屋根の頂上近くに立ちはだかっていました。大屋根にはいあがった警官たちは、それを遠まきにして、捕縄をにぎりしめ、ゆだんなくジリジリと賊にせまっていきます。
「ワハハハ……。」
やみの大空に、気ちがいのような高笑いが爆発しました。賊たちは、この危急のばあいに、何を思ったのか、声をそろえて笑いだしたのです。
「ワハハハ……、ゆかいゆかい、じつにすばらしい景色だなあ。ひとり、ふたり、三人、四人、五人、おお、登ってくる、登ってくる。おまわりさんで屋根がうずまりそうだ。
諸君、足もとに気をつけて、すべらないように用心したまえ。夜露でぬれているからね。ここからころがり落ちたら、命がないのだぜ。おお、そこへ登ってきたのは、中村警部君じゃないか。ご苦労さま。しばらくだったねえ。」
二十面相は傍若無人にわめきちらしています。
「いかにもわしは中村だ。きさまも、とうとう年貢をおさめるときがきたようだね。つまらない虚勢をはらないで、神妙にして、最後を清くするがいい。」
中村係長は、さとすようにどなりかえしました。
「ワハハ……、これはおかしい。最後だって? きみたちは、おれを袋のネズミとでも思っているのかい。もう逃げ場がないとでも思っているのかい。ところが、おれはけっしてつかまえられないんだぜ。おれの仕事はこれからだ。あんな宝石一つぐらいで、年貢をおさめてたまるものか。
おい、中村君、ひとつなぞをかけようか。おれたちがこの大屋根から、どうして逃げだすかというのだ。とけるかい。ハハハ……、二十面相は魔術師なんだぜ。こんどは、どんなすばらしい魔術を使うか、ひとつあててみたまえ。」
賊はあくまで傍若無人です。
二十面相は虚勢をはっているのでしょうか。いや、どうもそうではなさそうです。何かたしかに逃げだせるという確信を持っているらしくみえます。
しかし、四ほう八ぽうからとりかこまれた、この屋根の上を、どうしてのがれるつもりでしょう。いったい、そんなことができるのでしょうか。