魔法のたね
博士と明智と小林君などが、もとの応接間にもどると、まもなく、博士邸の門前に三台の自動車がとまって、その中から十四、五人の人がドヤドヤとおりたち、邸内にはいってきました。
「虎井博士、ぼくの証人たちが、ついたようです。いまに、ここへやってきますよ。」
明智がそういっているうちに、もう、ろうかに、おおぜいの足おとがして、ドアがひらき、つぎつぎと人の顔があらわれました。まっさきに、はいってきたのは、警視庁捜査係長の中村警部でした。
「おお中村君、証人はぜんぶ、そろっているだろうね。……こちらが虎井博士。虎井さん、これは、おききおよびでしょうが、ぼくの友人の中村警部です。」
警部があいさつしますと、虎井博士も、イスから立ちあがって、
「やあ、よく知っていますよ。明智さんは民間の名探偵、中村さんは警視庁の名探偵というわけですね。まあ、おかけください。そして、あなたのつれてこられた、おおぜいのかたがたを紹介してください。」
虎井博士は、顔いっぱいに笑いをうかべて、あいそよくいうのでした。
「きみたち、失礼して、こちらへ、はいりたまえ。」
警部の声に、異様なふうていの、三人のおとなと、ひとりの少年が、へやにはいって、入口のところへならびました。そのあとから、制服の警官が八人はいってきました。そして、中村警部のさしずで、応接間の四方のかべの前に、立ちならびました。ものものしいけいかいです。いったい、これから何がはじまるというのでしょう。
「松下岩男君、こちらへ来てくれたまえ。」
明智探偵が、イスに腰かけたまま、入口のそばに立っている、四人のうちのひとりに、声をかけました。
すると、いちばん右のはじにいたヒゲづらの男が、ツカツカと、テーブルの方へ近づいてきました。カーキ色の古い国民服を着た、きたない男です。
「きみは、丹沢山のきこりの松下君だね。」
「そうでがす。」
「きみが、警察ではくじょうしたことを、もういちど、ここでいってごらん。」
「もうしわけねえ。おらあ、金に目がくれて、大うそついたでがす。丹沢山の中へ空とぶ円盤なんか、おっこちたんじゃねえ。その中からコウモリのはねをもったばけものが、出てきたわけでもねえ。村の人や新聞記者にいったのは、みんなうそでがす。作田というだんなが、そういえといって、おらに十万円くれただ。そのうえ、もし、このことをだれかにつげ口したら殺してしまうと、おどかされたんだ。」
「その作田というだんなは、どこの人だね。」
「知らねえ。ひょっくら、おらの小屋へやってきて、金をくれただ。そして、これから、たえまなく、おまえを見はっているから、つげ口したら、すぐわかるぞと、おどかしただ。あのだんなは、大どろぼうにちげえねえでがす。」
「よし、きみはさがっていたまえ。つぎは、山根君だ。ここへ来たまえ。」
よばれたのは、ボロボロの服を着た、こじきのような少年でした。
「きみは、小林君の部下のチンピラ別働隊のひとりだったね。小林隊長のまえで、ほんとうのことをいってみたまえ。小林君、こいつは、きみがしらべるといい。」
すると、小林君は、イスから立っていって、いきなり、山根少年のほおに、ピシャッと平手うちをくわせました。
「チンピラ隊の名誉をきずつけたばつだ。チンピラ隊の子どもたちが、これをきいたら、きみをふくろだたきにして、半殺しにしてしまうよ。しかし、きみが、ここでほんとうのことをいえば、ぼくがみんなに、あやまってやる。サア、ほんとうのことをいってみたまえ。」
山根少年は、ほおをおさえて、べそをかいていました。
「おらあ、りっぱな紳士にたのまれたんだ。百円札を二十枚くれたんだ。そして、上野公園の塔のてっぺんへ、のぼったんだ。おらあ木のぼりの名人だからね。あんなこと、わけねえや。それに、紳士がてつだってくれたからね。そして、宇宙怪人に、さらわれて、塔のてっぺんに、しばりつけられたって、うそをいったんだ。紳士が、そういえば、二千円やるといったんだ。小林隊長、かんにんしてくれ、な。おらあ、ミツマメと、シルコと、肉ドンブリが、腹がやぶけるほど、食ってみたかったんだよ。それだけだよ。塔のてっぺんにしばられたって、べつにわるいことじゃないと思ったんだよ。な、かんにんしてくれ、な。」