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鬼-稻草人(1)
日期:2021-10-07 23:51  点击:275

(わら)人形


「殿村君、これで一先ずおしまいだ。小説と違って大して面白いものではないだろう」
 手すきになった国枝予審判事が、昔の学友探偵小説家を廊下へ誘い出して云った。
「おしまいだって? そんなことを云って、僕を追払おうというのかい。おしまいどころか、これからじゃないか」
「ハハハ……、イヤ、そういう訳じゃないが、今日はもう調べることもあるまい。あす解剖の結果が分る筈だから、何もかもそれからだよ。僕はN市に宿を取っているから、二三日はそこから村へ通うつもりだよ」
「仲々熱心だね。誰でもそんな風にするのかい。署長に任せて置いてもいいのだろう」
「ウン、だが、この事件はちょっと面白そうなのでね。少しおせっかいをして見る(つも)りだ」
「君は大宅君を疑っている様だが……」
 殿村は友達の為に、判事の気を惹いて見た。
「イヤ、疑っている訳じゃない。そういうことを()めてかかるのは、君がいつも小説に書いている通り、非常に危険なんだ。疑うといえば(すべ)ての人を疑っている。君だって疑っているかも知れない」
 判事は冗談の様に云って、殿村の肩を叩いた。
「君、今手がすいているのだったら、見せたいものがあるんだ。トンネルの(そば)の番小屋まで一緒に散歩しないか」
 殿村は相手の冗談を黙殺して、さい前から云おうとしていたことを云った。
「仁兵衛爺さんの番小屋かい。一体あすこに何があるの」
「藁人形があるんだ」
「エ、何だって」
 国枝氏はびっくりして、殿村の生真面目(きまじめ)な顔を眺めた。
「現場を(しら)べている時、君にそのことを云ったのだけれど、耳にも入れて呉れなかった。藁人形なんぞあとでいいと云った」
「そうだったかい。僕はちっとも記憶しないが、で、その藁人形がどうかしたのかい」
「マア、何でもいいから、一度見て置き給え。ひょっとしたら、今度の事件を解決する鍵になるかも知れない」
 国枝氏は突飛(とっぴ)千万なこの申出(もうしい)でを、真面目に受取る気にはならなかったけれど、殿村の熱心な勧めを退ける理由もなかった。彼は「小説家はこれだから困る」と呟きながら、殿村のあとについて小学校の門を出た。
 番小屋に着くと、今小学校へ呼ばれて帰ったばかりの仁兵衛親子は、又取調べを受けるのかと、オドオドしながら二人を迎え入れた。
小父(おじ)さん、さっきのホラ、藁人形を見せてほしいのだよ」
 殿村が云うと、仁兵衛爺さんは妙な顔をして「アア、あれですかい」と裏の物置小屋へ案内して呉れた。
 ガタピシと板戸を開けると、(まき)や炭を積んだ小暗い物置の隅っ子に、人間程の大きさの藁人形が、いかめしく突立(つった)っていた。
「ナアンだ、案山子(かかし)じゃないか」
 国枝氏があきれた様に云う。
「イヤ、案山子じゃない。こんな立派な案山子があるもんか。仲々重いのだよ、呪いの人型(ひとがた)だよ」
 殿村はあくまで生真面目だ。
「で、この藁人形が、今度の殺人事件にどんな関係があるというの?」
「どんな関係だか、僕にも分らない。併し無関係でないこと()けは(たしか)だよ。……小父さん、この人形を見つけた時のことを、もう一度、この人に話して上げてくれないだろうか」
 すると仁兵衛爺さんは、予審判事に小腰をかがめて、話し始めた。


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