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鬼-恐怖的陷阱(1)
日期:2021-10-07 23:51  点击:269

恐ろしき陥穽(おとしあな)


 その翌日も、国枝判事は、警察署長と連立って、小学校の臨時捜査本部へやって来たが、彼が例の調べ室へ這入った時には、一夜の間に、刑事達の奔走によって、実に重大な証拠物件が取揃えられてあった。
 その証拠物件によって、事件は急転直下、あまりにもあっけなく終結したかに見えた。恐るべき殺人犯人は確定したのだ。のっぴきならぬ確証が上ったのだ。
 間もなく、調べ室のテーブルの前には、大宅幸吉が呼び出され、昨日と同じ様に国枝判事と対坐していた。
「本当のことを云って下さい。あの日君はN市へなぞ行かなかったのでしょう。仮令(たとえ)行ったとしても、七時までには村へ帰って、それからずっと村内のどこかにいたのでしょう。君があの夜帰宅したのは十二時頃だというから、それまで、どこかお宮の境内(けいだい)とか、森の中とかで過したのでしょう」
 予審判事は昨日と違って、確信に充ちた態度で、落ちつき払って取調べを始めた。
「何度お尋ねになっても同じことです。僕はN市から真直(まっすぐ)に徒歩で帰宅したのです。お宮や森の中にいる筈がありません」
 幸吉は、平然として答えたが、青ざめた顔色に、内心の苦悶を隠すことは出来なかった。彼は(すで)に予審判事の握っている証拠物件に気附いていたからだ。そののっぴきならぬ証拠を、如何に言い解くべきかと、心を千々(ちぢ)に砕いていたからだ。
「アア、君にお知らせして置くことがあったのです」判事は全く別のいとぐちから入って行った。
「鶴子さんは細身の刃物で心臓をやられていたのです。多分短刀でしょう。つい先程、解剖の結果が分ったのです。で、つまりですね。この犯罪には血がある。被害者は血を流して(たお)れた。従って、加害者の衣服などに、血痕が附着したかも知れないと考えるのは極めて自然なことですね」
「そ、そうでしたか。やっぱり他殺でしたか」
 幸吉は絶望の表情でうめいた。
「ところで、加害者は、若し衣服などに血痕が附着したとすれば、それをどんな風に処分するでしょう。君だったら、どうしますか」
「よして下さい」
 幸吉は気でも違ったのではないかと思われる様な、突拍子(とっぴょうし)もない声で叫んだ。
「そんな問い方はよして下さい。僕は知っているのです。刑事が僕の部屋の縁の下から這い出して行くのを見たのです。僕は少しも(おぼえ)がないけれど、縁の下に何かがあったのでしょう。それを云って下さい。それを見せて下さい」
「ハハハ……、君はお芝居が上手ですね。君の部屋の縁の下に隠してあった物を、君は知らないと云うのですか。よろしい。見せて上げよう。これだ。これが君の常用していた浴衣(ゆかた)であることは、ちゃんと調べが届いているのだよ。サア、この血痕は何だ。これが鶴子さんの血でないとでも云うのか」


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