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新宝岛-地底之音
日期:2021-10-16 23:58  点击:315

地底の声


 こちらでは、晩のごはんの時間になっても、保君の姿が見えないものですから、一郎君と哲雄君は、犬のポパイや眼鏡猿や鸚鵡などといっしょに、先にごはんをすませましたが、それから、日がとっぷりと暮れて、あたりが真暗になり、空に美しい星が輝き出しても、保君は帰って来ませんでした。
「どうしたんだろうね、変だなあ」
「森の中に迷って、困っているんじゃないだろうか」
「そうだね、アア、いいことがある。鉄砲をうって、方角を知らせてやろうよ。そうすれば、もし道に迷っているとすれば、こちらがお家だっていう事がわかるわけだからね」
「ウン、それがいい。じゃ僕が銃をうつよ」
 そこで、一郎君が、猟銃を取出して、空に向かって、一発ドーンと発砲したのですが、それからしばらく待っても、保君は一こう帰って来る様子もないのです。
「じゃ、今度は焚火をしようよ。ドンドン火をもやせば、遠くからでも見えるわけだからね」
 哲雄君の考えで、すぐさま枯枝を集めて、焚火をはじめました。すると、モクモクと立ちのぼる煙に、真赤な焔がうつって、二十メートルも高い空が、赤々と輝いて見えるのですが、その焚火を一時間もつづけていても、やっぱり保君は帰って来ません。
「おかしいなあ、どうしたっていうんだろう。猛獣にでも出あって、ひどい目にあっているんじゃないかしら」
 二人は思わず目を見合わせて、黙りこんでしまいました。何ともいえぬ不安な気持です。大きなオランウータンにつかまってもがいている、保君のかわいそうな姿が、マザマザと目に見えるような気さえします。
 二人は何も知りませんでしたが、読者諸君はごぞんじです。前の章にちょっと(しる)しておいた通り、保君は恐しいものに出あっていたのです。オランウータンではないけれど、同じように恐しい大蛇に出あっていたのです。
 保君はあの時、うまく逃げ出すことが出来たのでしょうか、蛇というやつは、足もないくせに、非常に早く走るのです。いくら猿のようにすばやい保君でも、大蛇にはかなわなかったのではないでしょうか。そして、あの恐しい蛇にからだをまかれて、骨もなにもクタクタにしめつけられ、ついにはそのえじきとなってしまったのではないでしょうか。
 一郎君と哲雄君は、そこまでは考えおよびませんでしたが、何にしてもただ事ではないと思ったので、出来るだけ手をつくしてみようと、何度も空砲をはなったり、又二時間ほども焚火をつづけたりしましたが、いつまでたっても、保君は帰って来る様子もありませんので、あすの朝早くから、二人で森の中を捜索することに相談をきめ、その夜は、ひとまず洞窟の中の寝床に入りました。
 でも、心配で心配で、とても眠られるものではありません。一晩中まんじりともしないで、東の空がしらむのといっしょに、二人はもう洞窟を飛び出し、出発の用意をはじめました。
 まず大いそぎで食事をすませ、一郎君は猟銃を肩にかけ、弾丸(たま)も十分用意しました。哲雄君は銃がうてないので、武器としてはジャックナイフと、木の枝でつくったステッキを持ち、ポケットに麻縄の丸めたのと磁石を入れることを忘れませんでした。お供はいうまでもなく、猟犬のポパイです。ポパイは保君の(におい)をよく覚えているでしょうから、こういう場合には、たいへん役に立つわけです。
 少年二人犬一匹の捜索隊は、やがて森の奥深く入って行きました。小川のへんまでは、いつも水をくみに来る道なので、わけなく進みましたが、そこから先は、まったく道もないしげみの中、どの方角へ行けばよいのか、まるで見当もつきません。
「保クーン!」
 二人は声をそろえて、何度も呼んで見ましたが、むろん答のあろうはずもありません。
 すると、ポパイが何を感じたのか、一方のしげみの中へグングンと進んで行きます。
「オヤ、ポパイの奴、保君の匂をかぎつけたのかも知れないぜ」
「ウン、そうだね、ついて行って見よう」
 二人は両方からおおいかぶさって来る木の枝をわけながら、犬のあとについて進みました。
 ポパイはところどころで立ちどまって、しきりと地面をかぎながら、だんだん森の奥へ入って行きます。
「何かいやしないだろうか。気味がわるいね」
 一郎君は銃を両手にかまえて、いざといえば、いつでもうてるようにしながら、哲雄君をふり返っていいました。
「大丈夫だよ。もし何かいたら、ポパイが吠えて知らせてくれるよ。あいつがだまっている間は大丈夫だよ」
 と、哲雄君は注意ぶかくあたりを見まわしながら答えました。
 いかにもそうです。何かがいれば、ポパイが真先(まっさき)に気づくはずでした。こうなると、一匹の犬が何よりのたよりです。
 森の奥といっても、しげみばかりではなく、ところどころには広っぱのような場所もあり、自然に道のようになった(ところ)もあって、思ったほど進みにくくはありません。犬のあとについて、夢中で歩いているうちに、もう小川の処から二キロほども奥に入ったように感じられました。
 すると、その時、ポパイがふと立ちどまって、二人の方をふり返りながら、妙なうなり声を立てはじめたではありませんか。
 ギョッとして、思わず立ちすくみましたが、四五メートル先の地面を見ますと、ポパイのうなったわけがわかりました。
「ア、足あとだ! 靴のあとだよ。保君の足あとにちがいない」
 一郎君が大きな声を立てました。そこのやわらかい地面に、一つの靴のあとがハッキリとしるされていたのです。
 二人がそれに気づいたと知ると、ポパイは安心したように、うなるのをやめて、又グングンと進んで行きます。
「保さんのいる処は、もうじきですよ」といわぬばかりです。
「呼んでみようか」
「ウン、呼んでみよう」
 そこで二人はまた、声を合わせて、何度も何度も保君の名を叫ぶのでした。
「ちょっと、静かにしてごらん。何だかきこえやしない?」
 一郎君の言葉に、二人は息を殺して、しばらくきき耳を立てました。
 すると、かすかにかすかに、どこかから人の声がきこえて来るではありませんか。
「ア、人の声だ。保君だよ。オーイ、どこにいるんだよウ!」
 それに答えて、又どこからともなく、かすかな声がきこえて来ます。
「へんだなあ、どこにいるんだろう」
「なんだか、地の底からきこえて来るような気がするね」
 そのかすかな声は、前からのようにもきこえ、後からのようにもきこえ、右のようでもあり、左のようでもあり、まったく見当がつきません。
 すると、その時、又しても、ポパイの声がきこえて来ました。今度はうなり声ではなくて、けたたましく吠えたてているのです。
「ア、あすこに何かあるんだよ。哲雄君、行って見よう」
 二人がそこへかけつけますと、ポパイは前足で、しきりと落葉をかきのけながら、鼻を地面につけるようにして、吠え立てています。よく見れば、そこにつもっている落葉には、ところどころすき間があって、その下に穴があいている様子です。
 一郎君は、いそいで、靴でその落葉をかきのけましたが、すると、そこには大きな穴があって、穴の上に、枯枝を縦横にくみあわせ、その上に落葉がしきならべてあることがわかりました。おとし穴です。
「オーイ、僕だよ。そんなにしちゃ、土が落ちてしかたがないよ。しずかにしておくれよ」
 穴の底の方から、あわれっぽい声がきこえて来ました。保君です。保君はこの不思議なおとし穴の底に落ちこんでいたのです。
 一郎君と哲雄君は、その声におどろいて、穴の中をのぞきこみましたが、底までは三メートルあまりもある、深い大きな穴で、そのまっくらな底の方に、保君がグッタリとなってうずくまっているのが、ボンヤリ見えています。
「ア、やっぱり保君だ。オーイ、今助けてやるよ。どうしてこんなところへ落ちたんだい。馬鹿だなあ君は」
 哲雄君はポケットに用意していた麻縄を出して、それを穴の中へたらしてやりました。
「この縄につかまるんだよ。僕たち二人で引っぱってやるからね」
 そして、やっとのことで、保君は穴の外へはいだすことが出来たのですが、穴の中には雨水がたまっていたと見えて、ズボンやシャツはもちろん、手も足も、顔までも、どろまみれです。
「どうしてこんなところへ来たのさ。僕たちゆうべから、どんなに心配したかしれやしないぜ」
 一郎君にたしなめられて、保君は泣き出しそうな顔をしています。かわいそうに昨日の昼から何もたべないで、一晩中穴の底で(たすけ)を呼んでいたのですから、もうグッタリつかれてしまって、あの元気なチャメのター公のおもかげは、どこにもありません。
 二人にせめ問われるままに、保君は昨日森の中で大蛇に出あったこと、夢中になって逃げているうちに、この穴の中へ落ちこんだこと、そして一晩中、大声に叫んでいたことなどを物語りました。
 二人は大蛇と聞いてギョッとしましたが、でも、保君がその大蛇に危害を加えられなかったのは、何よりでした。それを思えば、おとし穴へ落ちたのなぞ、なんでもありません。
「森の中を一人でなんか歩きまわるからだよ。これから気をつけておくれよ。もし君が死ぬようなことがあれば、僕たちどうすればいいんだい。たった三人の家族なんだからね。ほんとうに気をつけておくれよ」
 一郎君は三人の内で体も大きく、いわば兄さんのような立場でしたから、兄が弟をしかるように、しんみりといいきかせるのでした。
 保君は大失策をやったわけです。でも、あとになって考えて見ますと、この失策はただ失策として終ったのではなく、保君の向こう見ずな行為が、はからずも、一つの驚くべき事実を発見するいとぐちとなったのでした。


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12/01 09:31