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新宝岛-梦之国
日期:2021-10-17 00:34  点击:297

夢の国


 子供はやっとの思いで岸に泳ぎつく、そこへ木のかげから、土人の女が駈け出して来て、なにか奇妙なさけび声をたてながら、子供をだきしめましたが、子供は岸にはい上ったまま気をうしなったものとみえて、グッタリとしています。
 筏の上の三少年は、思いがけぬところに、妙な土人がいたものですから、もしや人食人種ではないかと、うすきみわるく感じましたが、土人の女が、気をうしなった子供を見て、おろおろしている様子が、いかにもかわいそうですし、その女の顔は、土人ながらどこかやさしいところがあって、まさか人食人種の妻とも考えられませんので、ともかく上陸して、その子供を介抱してやろうじゃないかと、相談をきめました。
 熱帯樹のしげっている岸に、筏をつけて、三人が上陸しますと、土人の女は、見なれぬ服装の少年たちを見て、やっぱり気味が悪いのか、ちょっと逃げ出しそうにしましたが、だいじな我が子をすてて逃げるわけにも行かないので、そこに立ちすくんだまま、ためらっている様子でした。
 少年たちは、相手を安心させるために、ニコニコ笑いながら、そこに近づき、グッタリと倒れている子供をだき起してさまざまに介抱してやりました。
 そして、やっと正気を取りもどし、ビックリした顔で、キョロキョロあたりを見まわしている子供を、だきかかえて、「サア、君の子供を受取りなさい」というように、ニコニコしながら、女の方へ近よって行きますと、女はいきなり地面にひれふして、何かわけのわからないことをいいながら、まるで神様にでも礼拝(らいはい)するように、少年たちをおがむのでした。
 無智な土人の女にも、少年たちが我が子の命の親であることは、よくわかっていたのです。その上、死んでしまったのかと思っていた子供を、生きかえらせてもらったのですから、少年たちを神様のように思うのもむりではありません。
 女は三十歳くらいなのでしょう。腰のへんに布のようなものをまきつけているほかは、まっぱだかで、その肌が日に焼けて茶色になっています。でも黒ん坊ではありません。顔つきも肌の色も、どこやら日本人に似たところがあるのです。
 それが、ちぢれっ毛ではありますが、黒いフサフサした髪の毛を、肩の上になびかせて、一生懸命に、おじぎをしているのです。おじぎといっても、日本人のおじぎとはどこかちがっていて、もしこんな場合でなかったら、思わず吹き出したくなるような、へんな恰好をするのですが、でも、三人に心からお礼をいっていることは、よくわかるのでした。
 女は何度も何度もおじぎをしたあとで、オズオズと少年たちの方へ歩みより、一郎君が小脇にかかえていた子供を、受けとるために、両手をさし出しました。
 そして、子供を自分の両腕にだきかかえますと、又地面に坐って、何かいいながら、おじぎをくり返しましたが、それがすむと、サッと立上って、子供をだいたまま、いきなり林の外へかけ出して行ってしまいました。
 少年たちは、言葉はわからないでも、手まねで、この女にいろいろたずねたいと思っていたのですが、アッというまに、女は林の下をくぐって、たちまち姿が見えなくなってしまったのです。
 そこで少年たちは、思わず女のあとを追って、林の中を、川の反対の方へ歩いて行きましたが、二十メートルも進むか進まないに、もう林がつきて、三人の目の前にはパッとあかるい世界がひらけました。
「アラ!」
 保君のとんきょうな叫び声、そして、三人はそのままそこへ棒立ちになってしまいました。
 それほど、目の前の景色が異様だったのです。夢でも見ているのではないかと、うたがわれるほど、ふしぎな眺めだったのです。
 そこは、さしわたし五百メートルもあろうかと思われる広っぱでした。でも、ただの広っぱではないのです。土が真白にかがやいているのです。イヤ、土ではありません。地面全体が少しずつでこぼこのある、大きな白い岩なのです。
 その広っぱのまわりには、三人の立っている林の方をのけて、三方を、グルッと山がとりまいています。それもただの山ではなく、けずり取ったような高い高い岩山が、ニョキニョキとおそろしい姿で空にそびえ立っているのです。
 その山には土というものがないとみえ、木も草も生えていません。ただ輝くばかりの白い岩が、広っぱをグルッと取りかこんで、目もはるかにそびえ立っているばかりです。たとえていえば、そこは、ちょうど白い瀬戸物のコップのような形なのです。広っぱをコップの底とすれば、まわりの山々はコップのふちにあたります。それほど山が高くて、けわしいのです。
 それだけでも非常に変った景色ですが、そこには、もっともっと驚くべきものがありました。
 一方の白い岩山のすそに、大きな段のようになったところがあって、そこに建物の柱らしいものが、何十本となく立っているのです。屋根はありません。自然の岩山を、そのままくりぬいて、岩の柱だけが残してあるらしいのです。
 柱と柱の間は、暗い影になっていて、よくはわかりませんが、その奥に岩を掘りぬいた広い部屋がいくつもあるように感じられます。つまり、自然の岩山で造った宮殿ともいうべき、びっくりするほど大がかりな建物なのです。
 その白い柱が立ちならんでいるすぐ前から、建物全体の幅で、何十段とも知れぬ石の階段が、ズーッと地面まできざまれています。日本の(やしろ)やお寺には、ずいぶん高い石段がありますが、こんな幅の広い石段はどこにもありません。哲雄君はそれを見て、いつか歴史写真集で見た、古代エジプトの、ある王宮の写真を思い出しました。これはその王宮ほど大きくはありませんが、何となく似たところがあります。こんな立派な建物をつくるところを見ますと、ここに住んでいる土人は、古代エジプト人ほども、知識が進んでいるのかもしれません。
 さいぜんの女は、子供を小脇にかかえて、その白い広っぱを、宮殿のような建物の方へ、一もくさんに走って行きます。黒髪を風になびかしたそのうしろ姿が、小さく見えているのです。
 ところが、目でそのうしろ姿を追って行きますと、ギョッとしたことには、女が走って行くむこう、宮殿の石段の前を、十数人一かたまりになった男の土人が、いそぎ足でこちらへ歩いて来るのが見えるではありませんか。
 少年たちは何となく気味が悪くなって来ましたが、気味が悪いよりも、びっくりする方がさきでした。それは、男土人たちの服装なのです。ごらんなさい。土人たちのからだは、まるで仏像のように、キラキラと金色に光り輝いているではありませんか。
 遠いので、くわしくはわかりませんが、土人たちは皆、金色の兜のようなものをかぶり、金色の鎧を着ているらしいのです。
「ア、そうだ。ここが黄金国かもしれない。あのイギリス人のいっていた黄金国かもしれない」
 少年たちは、ほとんど同時に、心の中でそう叫びました。
 アア、あれは夢や幻ではなかったのでしょうか。瀕死(ひんし)のイギリス人のうわごとではなくて、ほんとうに黄金の国があったのでしょうか。


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