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新宝岛-黄金宫殿
日期:2021-10-17 00:34  点击:310

黄金宮殿


 あっけにとられて見ていますと、子供をかかえた女は、やがて金色の人々に近づき、何かあわただしく話しています。きっと三人の奇妙な少年たちが、どこからともなく現れて、鰐を打ち殺してくれたことを、報告しているのにちがいありません。
 女の報告を受けた男土人達は、しばらく何か相談していましたが、やがて、一同そろって、いそぎ足に、こちらへ近づいて来る様子です。
「ア、僕たちのところへ来るんだぜ。僕たちをつかまえるつもりじゃないかしら」
 保君がいちはやくそれと察して、心配そうにささやきました。
「そんなことはないよ。僕たちをひどい目にあわせるはずはないよ。僕たちはあの子供の命の親なんだもの。ごらん。みんなこわい顔なんかしていないじゃないか」
 哲雄君が、近づいて来た土人たちの表情を見ていいました。
 いかにも、土人たちはみな優しい顔をしていました。中にも先頭に立っている、長い白髭を胸にたれた老人は、この土人たちの中で一番えらい人なのでしょうが、何となく威厳のある顔に、ニコニコと微笑さえ浮かべています。
 三人は、その様子にいくらか安心して、でも一郎君は、例の銃を両手にかまえて、イザといえば発射できる用意をして、じっと土人たちの近づくのを待っていました。
 近づくにしたがって、土人たちの服装もハッキリわかって来ましたが、最初考えたとおり、それはやっぱり金の兜、金の鎧だったのです。
 兜は、日本はもちろん、西洋のどこの国の兜にも似ていない、妙な形のものです。全体がキラキラ光る金色の火焔の形をしているのです。頭の上で炎々と火が燃えて、その金色(こんじき)の焔がうしろの方へ風になびいているような、勇ましい形につくってあるのです。
 鎧も全部金色にかがやいていますが、そのつくり方は、やっぱりどこの国の鎧とも似ていません。しいていえば、国史でおそわった日本の埴輪(はにわ)に、どことなく似ています。神武(じんむ)天皇のお供をした、私たちの先祖は、ちょうどこんな鎧を着ていたのではないかと思われるような、古風なつくり方なのです。
 手や足ははだかのままで、胸と腹と腰のまわりだけ、鎧でかくされているのですが、そのはだかの足の先には、西洋の大昔の武士がはいたサンダルという革のわらじとでもいうようなものをはいていて、そのサンダルまでが、うすいしなやかな黄金で出来ているのです。
 手にはみな長い(やり)を持っていましたが、その鎗の柄にも、金がまきつけてあるという調子で、何から何まで黄金ずくめなのです。この土地にはよほど大きな金山があるのにちがいありません。
 そういういでたちの十幾人の土人が、ノッシノッシと大またに歩いて来るのですが、皆が足を動かすたびに、鎧のすそがふれ合うのでしょう、チャリンチャリンと美しい黄金の音色(ねいろ)が、まるで音楽のように聞えて来ます。風鈴が、いくつもいくつも風に吹かれて鳴っているような、やさしい涼しい音色です。
 少年たちは、いよいよあっけにとられて、何を考えるひまもなく、ただもう夢でも見ているような気持で、ぼんやりと立ちすくんでいる内に、やがて、キラキラ光る土人たちは、もう目の前に近づいていました。
 先頭に立った白髪の老人が、ニコニコ笑いながら、三人に向かって何かいいました。むろん叱るような声ではなく、ごく丁寧な口調です。
 少年たちは互に顔見合わせてだまっていました。相手が何をいっているのか、少しもわからないからです。
 老人は言葉が通じないとさとると、今度は手まねをはじめました。それも、はじめの間はどういう意味かよくわかりませんでしたが、やがて、「私たちと一緒に、あすこに見える建物の中へ来てくれ」といっていることが察しられました。建物というのは、むろんあの宮殿のことです。
「僕たちをあすこへつれて行って、しらべるつもりかもしれないぜ」
「ウン、そうらしいね。でも、今さら逃げ出すわけには行かないから、ともかく行ってみようよ」
 少年たちはそんな相談をした上で、老人に向かって、いっしょに行ってもよいという意味を、手まねで知らせました。
 そこで、老人はうれしそうにうなずいて見せると、「サアどうか」というように、先に立って歩きはじめました。少年たちもそのあとにつづきます。十幾人の土人たちは、見なれぬ服装の少年を物めずらしそうに、ジロジロながめながら、三人のまわりをとりまくようにして、歩くのです。そうして歩いている間中、あの美しい風鈴のような音色が、たえず三人の耳をたのしませました。
 やがて、一同は白い広場を歩きつくし、高い石段をのぼりつめて、いよいよ石の宮殿の中に入って行きました。想像した通り、その中には大小さまざまの石の部屋がならんでいて、その間に広い石の廊下がつづいているのです。
 一同は建物の入口で、やはり黄金の鎧を着た番兵らしい土人の敬礼を受け、長い廊下をいくつもまがって、奥まった一室へ入って行きましたが、その部屋に一歩ふみ入るやいなや、少年たちは又しても、アッと驚きの声を立てないではいられませんでした。
 そこは畳にして百畳もしけそうな大広間ですが、その天井から床から四方の壁まで、すっかりキラキラ光る黄金の薄板ではりつめてあるではありませんか。天井の一部に光線をとる穴があけてあって、そこからさしこむ光が、壁や床の黄金に照りはえ、目もくらむばかりの美しさです。
 あまりのきらびやかさ、まぶしさに、少年たちはしばらくの間、その部屋に何があるのか、よくわからないくらいでしたが、やがて目がなれるにつれて、そこがこの土人達の酋長、つまり黄金国の王様のお部屋であることがわかって来ました。
 正面の一段高くなったところに、黄金の椅子のようなものがすえてあって、そこに、四十歳くらいの黒い髭をはやしたりっぱな人物が、ゆったりと腰かけていました。この人のは、兜も鎧も今まで見たのとはちがって、様々のこまかい彫刻をしたかざりが一面についている、何ともいえない美しいものでした。これが黄金国の王様だったのです。
 その王様の左右には、やはり黄金の鎧を着た土人の武士が七八十人、ズラリとならんで、めずらしそうに少年たちを見つめています。
 老人とその部下の土人達は、王様の前に平伏して、なにか神様でもおがむような恰好をしていましたが、それがすむと、老人だけが立上って、少年たちを指さしながら、しきりと何かしゃべりはじめました。いちぶしじゅうを報告しているのにちがいありません。
 老人が話しおわりますと、今度は子供を助けられた女土人が呼び出され、この女もくわしく事情を物語りました。
 それらの報告を聞くにしたがって、王様の顔には、驚きの色が浮かんで来ました。そして、しばらくの間、ふしぎそうに、三人の少年をながめていましたが、やがて、王様の口からはじめて言葉がもれ、老人に向かって何か命じた様子です。
 すると、老人は少年たちの前に来て、例の手まねをはじめたのですが、老人が同じことを何度もくり返している内に、少年たちにもやっと意味がわかって来ました。
「お前たちはいったいどこから来たのか」
 とたずねているのです、しかし、そうわかっても、言葉が通じないのでは、どうにも説明のしようがありません。三人は途方にくれて、顔見合わすばかりでしたが、やがて哲雄君がシャツの胸のポケットに手帳と鉛筆があることを思い出しました。
「アア、いいことがある。僕、絵をかいてみるよ。あのイギリス人と話したようにやればいいんだ」
 そこで、手帳を取出して、あの子供を助けた川と、そのむこうの高い岩山の谷間から、筏に乗った三少年が流れ出してくるところをかいて、手まねといっしょに老人にさし出しました。
 老人はそれがわかったとみえ、うなずきながら、手帳を受取って、王様の前に進み、その絵を見せて何か説明しました。すると、王様の顔に浮かんでいた驚きの色はますます濃くなり、左右にならぶ武士達の間にも、びっくりしたようなざわめきが起りました。
 少年たちは、どうしてみんなが、こんなに驚いているのかと、うす気味悪く思っている内に、とつぜん思いもよらぬことがおこりました。王様が椅子から立って、ツカツカと三人の前に近づいてこられたのです。そして、少年たちの手をとるようにして、壇の上につれもどり、自分の椅子のそばへ三人を立たせたではありませんか。
 それから、王様があたりを見まわして、おごそかに、何かいいますと、いならぶ臣下たちは、一人のこらず床にひざまずいて、三人の少年に向かって、例の神様をおがむような恰好をして、しばらくは頭を上げるものもありませんでした。
 その時は、少年たちは(きつね)にばかされたような気持で、何が何だかわかりませんでしたが、あとになって、この土人の国の言葉がわかるようになってから、聞いたところによりますと、王様をはじめ武士達に、三人がこれほどの驚きをあたえ、尊敬をうけたのには、もっともなわけがあったのです。
 その一つは、一郎君が何か棒のようなものの先から、火と煙を出して、まるで魔法のように鰐をうち殺したことです。この土人の国には、まだ銃というものがなかったので、そういう魔法を使う一郎君たちは、神様のようにえらい人としか考えられなかったのです。
 それからもう一つは、三人が川のむこうの谷間からやって来たということです。
 この国では、昔からあの谷の奥をつきとめたものは一人もなく、谷の奥にはおそろしい魔神がすんでいて、そこへ近づくものにはたたりがあると思いこんでいたのですが、そのおそろしい魔の谷間から、三人の可愛らしい顔をした少年が現れて来たというので、いよいよただの人間とは思われなくなったのです。この三人は神様のお使にちがいないと信じこんでしまったのです。
 それなればこそ、あのいかめしい王様でさえ、少年たちを自分の兄弟かなんぞのように、同じ壇の上へみちびかれたのです。王様がそれですから、家来たちの気持は、もういうまでもありません。三人の少年を王様と同じくらいに、イヤ王様以上にさえうやまい恐れてしまったわけです。
 みなさん、私たちの三少年の上に、今こそ思いもかけぬ幸運がめぐって来たのです。何度となく命がけの困苦をたえしのんだ三人の智恵と勇気には、神様も感心なさったのでしょう。最後には、まだ世界中のどんな少年も味わったことのない大幸福をさずけて下さったのです。夢かと思っていた黄金国が見つかったばかりか、その国の大切な客となって、土人達にあがめうやまわれる身の上となったのです。


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